第30話 どうして光源氏の君は笛を腰にさしてるのか?
「クロランド殿は、騎士そのものでしたから、万事気が楽でしたよ。うちは皆そう言う連中ばかりですからね。」
オズワルドは、情報交換、意見交換もあって、同じ立場でもあるヤマト国の一行の部屋を訪れた。
ミナモトヒカルは、快活に話に応じてくれた。タケチもミヤモトも長身だったが、ミナモトヒカルも負けず長身だった。ミナモトトモエも女性としてはかなり長身で、唯一小柄なミナモトヨシツネよりも大きく見えるほどだった。
「勇者様方は、個性も強いですからな。まとめ役のソウ殿、ディオニュソス殿、ロキ殿、シンドバッド殿も苦労されてはいますな。」
これは、声を小さくし、少し難しい顔をした。
「ブショウ殿は野心家ですな。まあ、聡明な方ですから、後先を考えないことはしないと思いますが。」
ブショウは、勇者ヒョウセンのチームの賢者でもあり、魔道士でもあり、弓の名手でもある。目鼻立ちのはっきりした、黒髪を束ねている美人である。聡明で、よく気がつき、世話好きのように見えるが、冷たいというのでも、熱いというのでもない、ビリッとするもの感じさせる。“武則天だからな。”オズワルドは、寒気を感じてしまった。とは言え、ここで彼らに危害を加えるような小者ではないはずだ、と思いたかった。ヒカルのことは、彼らにつけたサンスベールからも聞いているが、イケメンの優男の外見に似合わず、なかなかの剣の使い手だという。全てのメンバーについての情報は、事前に得ているが。彼の目に、太刀の脇に縦笛、横笛を差し、さらに他の小さな楽器を身に着けているのが入った。さらに、色々な楽器を従者に持たせている。ロフなどは、戦場にそんなものを持ってくるとは軟弱者だ、困った足手まといだなどと、聞こえよがしに呟いたほどだ。トモエが、それを聞きつけて、大薙刀をつかんで、ヒカルにやんわりと止められた。他の者は、さすが東方の風流と一応納得褒めつつ、何かあるのではとも思っている。アテナは、
「聖なる楽器ですか?魔力か聖なる力を持つ?」
と何となく尋ねたが、
「名器で、愛用していますが、単なる人が作った素晴らしい名品ですよ。」
と笑ってい応えたが、アテネは不審そうな顔をしていた。
ヤマト国、はるか昔、予言者でもある、特に神の恩寵を受けた、神聖な巫女である聖女が創った国であり、その子孫が代々王として続き、国民はその下で統治されているわけだが、政治は国民の代表達が行って、王は崇敬を受ける存在となっている。ヒカルは現王の異母弟であり、政治でも芸術、文化でも大きな役割を担っているが、野心を全くといって持っていないらしい。オズワルドが得ている情報ではであるが。ちなみに、神の恩寵を受けた予言者…というのは、あくまでもオズワルド達の側の解釈に過ぎない。
オズワルドは、かねがね思っていたことを口にした。
「ヒカル様は、音曲で神をも動かすとも聞いておりますが。」
窺うように、ヒカルを見た。
「さすがにオズワルド殿。よう見た。」
ミヤモトムサシだった。
「ムサシ殿も、過大な評価を。確かに古の名人には、そのような力がありましたが、私にはとてもそれには及びませんよ。」
「足元程度の力はあるということですね。」
オズワルドは食い下がった。
「神々の力を借りられる、力を貸していただけるというところでしょうか。」
タケチコダテであった。端正な、長身の、真面目が絵に描いたような美丈夫だった。
「はは、それほどではないよ。」
ヒカルは笑顔で、否定するように手を顔の前で振った。
「その力、実戦で拝見したいですが、そのような時は会いたくないですね。」
オズワルドは微笑ながら言うと、
「オズワルド殿は、中々言いますね。」
あくまでも好感を感じる笑顔で答えたが、最後に、
「ブショウ殿が高く評価していましたよ。」
付け加えたが、それを聞いたオズワルドは思わず鳥肌がたった。“止めてくれよ!”心の中で叫んでいた。
その頃、メリーウェザーはトモエと話しをしていた。
「ヨシツネ様って可愛い!」
「そうでしょう!」
トモエは黒髪の美人で、魅力的な容姿だったが、女性としては背の高いメリーウェザーよりも背が高かった。愛用の大薙刀で、魔族の雑兵や魔獣を一刀の下に真っ二つにしたという。それでいて、優しく、明るい女性で、メリーはすっかり気に入ってしまった。
ヨシツネというと、男としては小柄というよりは華奢といえるくらいで、しかも男装の美少女と間違えるほど可愛い顔だちなのだ。
「でもね、身軽さ、速い動きで超一流の戦士なのよ。しかも、有翼人よりも速く飛ぶ飛行魔法の使い手なのよ。」
まるで、自慢の弟を褒めまくるブラコン姉のようだった。それがまた、不自然ではないくらいに彼女にはぴったりはまっていた。
そんな彼女の態度に心から微笑みながらも、“彼女は破滅フラグにつながっていないわ。変な野心はなさそうだから”と見ていた。
ヨシツネはというと、女達の評判を聴いてか、聞かないか、分からないが、視線が合うとにっこりと笑うばかりであったが、それがまた、2人にはとってもたまらなかった。“ヨシツネも、野心など全くないというところね。”キュンと心臓の声をあげながらも、冷静に観察していた。
殺伐とした砦とはいえ、彼らのために個室を提供してもらえたことをいいことに、ベットの上で快感の余韻を味わいながらも、荒い息で並んで仰向けになっている2人がいた。
「兄さんたら…、声がでちゃったじゃない…。何時もより激しくて、あ、焼き餅焼いていたんだ?」
「否定しないけど、お前の声も凄かったじゃないか?」
「だって、お兄ちゃんたら、他の女の前で鼻の下を伸ばしちゃってさ…。」
痴話げんかも始めていた。翌日、家臣達にからかうような視線を向けられ、半ばひらきなおって、何時も以上に寄り添う2人だった。
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