第29話 優しく慰めてあげましたの。
案の定、2人は落ち込んで帰ってきた。
オズワルドが、2人に付いていったサンスルリとサンスタアの両騎士に尋ね、さらに両勇者の取りまとめ役のディオニソスとソウに確認してみると、可もなく不可もなくといったところ、大過なく勤めを果たしたというところだった。ホッと胸をなで下ろしたが、勇者アテナは、
「治癒に随分とかかること。日が暮れそうね。」
勇者ヒョウセンの兄のロフが
「貴国の騎士は、思いのほかの働きだったのにな。」
と言ったらしい。言われても、仕方がない状況でもあった。ソウとディオニソスは、
「申し訳ない。」
とかえって頭を下げたが。“困ったもんだな。”とオズワルドは頭を抱えた。とにかく、まずは、皆の働きを褒め、評価されていることを伝え、2人には個々呼び出して、2人が言われたことを知っているが、自分は2人の働きが悪かったとは思わない、と告げた。それでは足りない、と思った。
“ここは、2人に遺恨が残らないようにしないと。こんな処で、破滅フラグの巻き添えなんかまっぴらですから。”
聖女は、見習いだが、1人寂しげに、砦内の櫓の一つのそばに座り込んでいた。金髪の小柄な少女だった。“あ~、よくあるパターンよね。ここは、優しいお姉様の顔で。”メリーウェザーは、静かに近づいてから、声をかけた。
「あ、メリーウェザー様。」
力無く、顔を向けた。名家の非嫡出子、愛人の子で才能があり、で聖女候補になり、冷たい父が期待で態度と待遇が随分良くなった。しかし、結局は聖女後継者は庶民出身者が選ばれ、自身は聖女見習のまま、父、家の態度がまた悪化していた。今回のことは、失地挽回の好機だったのだ。それが、である。早々に失敗したのである。彼女は、メリーウェザーに、あらいざらいぶちまけた。彼女の、慈愛に満ちた笑顔に救いを見いだしたのである。全てを聞いてから、
「来てくれたのが、あなたで私達は、本当はね、ホッとしたのですよ。」
次期聖女だったら、どこで倒れるか、ハラハラしなければならなかったし、戦いどころではなかったはずである。優しい、穏やかな声でゆっくり語りかけた。彼女の表情が少し穏やかなものになったのを見て、
「私も、オズワルドも、あなたを頼りにしているの。聖女は一人だけだから、あなたは聖女になれないでしょうけど、重要な役割を担うことになるわ。私達は、そうしたあなたを助けていきたいと思っているのよ。今後も、ずっと。」
彼女は、驚いたように、メリーウェザーを見た。
“私って詐欺師している!とにかく、この場を何とかしないと!おまけにこれだ!”
慈愛に満ちた笑顔から、怪しい悪女の笑顔に転換した。聖女見習いのグロリアは、頷くように顔をあげた。ちょっとした野心が入った笑顔だった。彼女は計算できる頭もあった。王族とエバンズ公爵家が後ろ盾になる、これは自分にも幸運だが、父も喜ばざるを得ないことだと理解していた。求められる役割は、教会での影響力を高めることをオズワルド夫妻は狙っているのだと考えた。“そのためには、こんな処で泣いてなんかいられない!頑張らねば、後援してくれるオズワルド王子夫妻の期待に応えるために。”燃え上がるような少女のオーラに、“やっちゃったよ~、どうしよう?”と、顔色合い一つ一つ変えずに、心の中で泣き叫ぶメリーウェザーだった。しかし、
「まあ、上策だったと思うよ。」
とオズワルドは、首をひねりながらも、褒めてくれた。実利をぶら下げないとダメだ、というのが彼の考えだった。これで、彼女は聖女以外の道が選択できるようになった。負け組になったが、上手く負けて、違う道での勝ち組を目指すこととなったのである。
「それはそれでいいし、」
と言い、彼女を取り込むことは自分達にも利益があると指摘した。彼女は次期聖女に次ぐ者なのだから。彼女の今後の地位を確保してやることで恩義を与えれば、彼女は感謝して助けになる、それは彼女の実家も同様に取り込める。次期聖女達の側に厄介払いできたという印象も何処かで与えておく必要がでてきたが。
「悪い人ね、お兄ちゃんは、本当に。」
メリーウェザーは、呆れるとともに感心した。が、少し心配にもなった。陰謀を働いていると思われないか、と。
「本当に、感がいいな。直感も正しいし。」
陰謀の誤解が生じないように、父である国王に、詳細を包み隠さず報告の手紙を書く、当然、母貴妃、そして王妃、アラン王太子に国王が見せることを前提として、とオズワルドは説明した。取りあえずは、それで何とかなるだろうと、思案顔で言った。メリーも、一応納得した。
賢者見習いのグリコは、メリーウェザーは、彼を呼び出して同様なことを、優しく、一部妖しく、慰め、励まし、唆した。小柄な黒い髪の童顔の彼の目は姉を見つめるような感じになっていた。地方の、比較的裕福な農民出身で神童と言われ王都に出て、皆の期待、特に後援者である地元貴族の期待感に応えるために頑張ってきたがここ最近の挫折、伸び悩みに悩んでいた。それが、はじめで優しさに包まれたのだ。
その後、4人がたまたま会した時、そう装ったのだが、オズワルドからも話をした、その確認になるような。2人は、メリーウェザーに対して姉に対するように接し、オズワルドの部下のように彼の前では、きびきびと動いた。“お兄ちゃんの詐欺師!”、“仮面を被った詐欺師!”と互いに言い合った。だから、信頼が出来ると、あらためて感じたのだが。
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