第28話 八方美人は無理とはいえ

 各地で魔族の活動が激しくなっているため、勇者達が一丸となって戦うというわけにもいかないので、勇者達は、一旦分かれて、魔族の軍と戦うこととなった。オズワルドとメリーウェザーは、フレイアに従った。聖女は、見習いだが、勇者アテナに従った、賢者見習いは勇者ヒョウセンに従った。それぞれのチームに不足していると思われる者を送ったのだが。

「申し訳ない。」

 妹のヘラの治癒を行っている、オズワルドに、ロキは側に来て頭を下げた。彼が属する勇者フレイアのチームは、回復魔法の使い手がいない。フレイアは魔法にどちらかというと特化しているが、剣の腕も名人的ではあるものの、回復魔法はあまり得意ではない。ロキも魔法の使い手で、回復魔法はかなり使えるが、得意というわけではない。彼の妹も弟達も、魔法が使えないわけではないが、あくまで戦士である。

「フレイア様をお守りいただいた上に妹達まで、お世話になってしまい、感謝に堪えません。それを最初の内は分からず…、ご無礼であったこと、お許し下さい。」

 ロキは、聖女ではなくオズワルドが、その代役として来たのを不満そうな態度を示していた。

 しかも、想定以上の魔族の数で、一時、自分の目の前の相手で精一杯で、オズワルドとメリーウェザーもフレイアの側で奮戦しなければならなかった。その戦いぶりは見事だったとも褒めた。

 オズワルドは、笑って、

「フレイア様は、私達夫婦の助けなぞ必要としなかったでしょう。ロキ殿の方が私なぞより、ずっと上ですよ。」

 ロキは、フレイアの治癒でせいいっぱいだった。

 ロキ達もフレイアが攻撃魔法を続けざまに放っているのを注意して戦ったが、その彼等の間隙をつくように、フレイアに近づき攻撃してくる一隊がいた。その中で、オズワルドとメリーウェザーが、立ち塞がり、攻撃させなかった。特に、メリーウェザーが魔法だけでなく、物理的攻撃も無効化して獅子奮迅の働きをしたのには驚いた。フレイアが一人で撃退できたかもしれないが、結構頑張ったオズワルドが、フレイアの治癒で、ロキが他に手がまわらない中、他のメンバーの治療を行ったのだ。その回復魔法の手際も見事だったと言った。

「勇者様も感謝していましたよ、本当に。」

「本当に感謝していますわ。初めて、あの様な力を見て、驚きましたわ。それに、ご夫婦ともに、見事な剣の腕前。感心しましたわ。お陰で早く終わらせることができましたわ。」

 勇者フレイアは、メリーウェザーの手を強くにぎりしめた。言外に、“2人無しでも、自分一人でも問題なかったが、時間が短くなっ手助かりましたわ。”というニュアンスが入っているのが、わかるようだった。

「でも、こうして間近に見ると、メリーウェザー様は本当にお美しいですわ。」

 そして、ぐんと自分の胸を突き出した。これも言外に“私ほどの美人ではありませんがね。それに、自分の方が胸が大きいわよ。”も、入っているように思われた。

 メリーウェザーは、ニッコリと微笑んで、

「私達の働きなぞ大したことではありませんわ。フレイア様の魔法、容姿、本当に惚れ惚れいたしました。」

“大きさ?形や感触は私の方が、断然上ですわ。”

 相手の気持ちが分かるかのように、一瞬、2人のこめかみがピクピクしたが、気がつかない風を装って、

「あなた方とは、上手くやれそうですわ。これからもよろしくお願いしますわ。」

「こちらこそ。勇者フレイア様に、そのようなことを言っていただけるとは、大変な名誉ですわ。」

 その後、フレイアはアテナの悪口に暫く終始した。

 メリーウェザーは、少なくとも、アテナよりはフレイアとの方が上手くやれそうな気がした。フレイアも、上から目線だが、アテナと比べると、親しみやすく、こちらへの配慮も一応ある。アテナはというと、私はこうする、といった感じで、全く相手のことなぞ配慮しない。だから、“あの男女”とアテナを罵倒するフレイアにメリーウェザーは心から同調していた。“いいこと、ロキには手を出すなよ~!”、“お兄ちゃん、オズワルドに手なんか出したら許さないから~。”と無言のうちに協定ができあがっていた、二人の間では。周囲の魔族を制圧し終わると、当初の打ち合わせの通りにカノン砦に向かった。

“他の勇者達はどうだったのだろうか?”とその道中、約一日の行程だったが、オズワルドは心配になった。戦いの緊張がなくなって、そのことに思いがいくようになったのである。他の勇者のこと以上に、彼らに従った、聖女見習いと賢者見習いのことが心配である。戦いの先頭に立つわけではないから戦闘での負傷とかの心配は少ないが、この2人が上手く役割を演じれたと評価されたかどうかが心配だった。2人とも教会の秘宝石、それぞれの魔力を大きく高める、を貸与されてはいる。しかし、国最高のは、オズワルドとメリーウェザーに貸与されている。そもそもの能力の差と身分によることとはいえ、彼らが不満を持っても当然である。上手く役割を演じれなかったら、国の威信に関わってくる。

「まさか、あの2人が勇者を陥れる役割を演じないわよね、お兄ちゃん?自分の力不足を棚に上げて、逆恨みして。あ、逆恨みの対象が、私達に向かったりして。」

 メリーウェザーが、オズワルドに近づいて耳元で囁いた。

“それもあるか!”

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