第25話 なんで、勇者は女ばかりなのですの?
「勇者は皆女?」
オズワルドとメリーウェザーは同時に声を上げた。
「何故ですか?」
これも同時だった。
「分からん。そうなったのだ。」
「そこなのですよ。」
貴妃が引き継いだ。
「メリーウェザーは、学校で、良きお姉様と慕われていましたから、彼女らをまとめてられるのではないかと期待しているのですよ。」
さらに王妃も、
「その上、先輩たちからも信頼をもたれていたそうではありませんか。その意味でも適任と言えるでしょう。」
“何で、2人とも、そんなことまで知ってるのよ~!”そんなことは、彼女の方は気づいてもいなかった。
「それに、オズワルドも、女騎士達には信頼されていたようだしな。」
国王の駄目押しに言ったのだが、その言葉のせいで、メリーウェザーの目が急に厳しくなり、
“どういうこと~、お兄ちゃ~ん!”のどす黒いオーラに包まれた。それを無視してオズワルドは、
「だからと言って、妻まで危険なことに。」
「どちらかだと、心配でしょう?自分もと言い出すでしょう?違いますか?」
母の指摘には、詰まってしまった。
「何で女勇者がいっぱいなのよ?」
「前半の乙女ゲームから勇者物語に、女の子も出来るだけ、そのまま続けるようにと、女勇者のパターンの数が多かったらしい。」
「セイが、そのまま女勇者になるパターンもあったもんね。オズワルド王子が、女勇者を毒牙にかけようとしたり、手柄を横取りしようと襲撃したりというのもいくつもあったわよね。本当にオズワルド王子ってひどいゲスやろうよね。」
メリーウェザーは、オズワルド王子に皮肉を言った。
「自分のことながら、そう思うよ。でも、メリーがセイ以外の女勇者に悪事や策謀を働くパターンもいっぱいあったぞ。」
「あら、そうだったかしら?」
とぼけたが、思い出した。復讐劇もあったっけ、と背筋が寒くなった。
「2人が悪事を働いて破滅しそうにないということで、勇者編が女勇者ばかりということになったのかもしれない、かな?」
本当のところでは、わからなかったが、護衛の騎士、腕は保証できるもつけて、かつ、支援もするからということで、引き受けさせられることとなった。
「お、おね…お義姉様。女勇者達などには負けないでくださいませ。お兄様に、これ以上、悪い虫を近づけさせないでください。」
“何よ。私が最初の悪い虫だと言うの?大体、オズワルドは、私だけのお兄ちゃんよ!”
オズワルドの今妹達、双子のナターシャとソーフィアとオズワルドの今妻、元妹のメリーウェザーは、半ば睨みあうように、手をがっしりと握りしめた。敵の敵は味方というところだろう。
「母としては、お前を危ない目にあわせたくはないが、国のことを考えると、そうは言ってはいられないのです。私からも、出来るだけの支援が与えられるように、色々と頭を下げまわりますが、あなたも、武門の家柄に恥じぬように。」
母親にそこまで言われると、流石に、オズワルドも同意せざるを得なかった。
「まあ、母上は、あれでも息子を心配はしてるんだよ、人並みには。」
とメリーウェザーと2人っきりで、寝室でワインを傾けながらしみじみと言った。かなり飲んだので、口が軽くなっている。
「俺を、王太子、次期国王にしたいとは思っているが、国法、制度、秩序を壊したら、国が乱れることはよく分かっている。それは絶対しない。そういう人だ。だから、俺達が出ることが国のため、国益になると判断したら、反対はしない、それもあの人らしい。王妃様も同様だ。」
「王妃様は、私達が死んだ方がいいのでは?」
彼女も、かなりワインを飲んでいたので、うがった見方を口にした。
「同時に、ここで俺が成功して、名声が上がることは好ましくない。死ねように、工作することも可能だ。しかし、国のためにはならない。あの人も、国のために動く人だ。2人とも、その点はわかり合って、その上で競い合っている。恐ろしい女達だよ。」
本当に怖いと思っていた。メリーウェザーも同感だった。
「ところで、アラン王子とセイの結婚式での妨害の黒幕は、誰かわかったの?」
「それなんだが。」
最近、国王の寵愛を受けている妃の取り巻きというか、関係者というか、取り入っているというかの連中が関与していたらしい。
「あまり公にしたくない、アランの立太子の式にそのようなことがあったというのでは、国が乱れているようと喧伝するようなものだからな。」
だから、秘密裏に、内々のうちに関係者を処罰したらしい。かなり寛大な措置だった。未遂だったこともある。
「あ~、あの若い妃ね。」
少し悪意のある調子で肯いた。メリーウェザーと同い年の下級貴族出身の女である。小柄で、見事な金髪の美人で、利発で良く気が付く性格だった。そういう噂だった。あったことも、見たことも、話したこともあるが、何時もほんの少しの時間に過ぎなかったので、噂の真偽などは分からない。
「彼女が直接関与した証拠はなかった、周囲が勝手にやったということとされたらしいよ。」
「それでおとがめなし?若い愛人を守りたかったんじゃありませんこと、国王陛下は。」
「まあ、そういう所だろう。」
あっさりとオズワルドは認めた。そして、
「一応、国王陛下は、厳しく叱責はしたそうだ。」
「王妃様や貴妃様、お義母上は納得したのかしら?」
「頭を下げて謝って、サービスにこれ勤めたそうだ。」
「あっちも?」
彼女が、ベッドを指さすと、彼は大きく頷いた。
「国王陛下も大変でしたわね、そうでもありませんかしら?」
2人とも、30代半ばとは思えない容色を保持しており、脂ののった色気、それに加えて手練手管、大いに国王を喜ばせたろうことは確実のように思えた。
「当分は、若いだけの女の部屋には足を運ばないだろうさ。何時まで持つかは分からないがな。」
「本当に男っていうのは困ったもんですわね。ところで、お兄ちゃん、私は許さないからね、そんなこと。」
「わかってるさ。」
そう言いながら、睨みつける彼女のグラスにワインを注いだ。
「甘い後始末で、これからの火種になりそうだな。」
ポツリとオズワルドは言った。王妃や貴妃は、それが分かっていないとは思えない、と言おうとして、メリーウェザーは怖くなって止めた。
「まさか、かもな。」
彼女の心を読んだかのように、彼は自分のワインのグラスにもワインを注いながら呟いた。
「もう動けない~。ベッドまではこんで~。」
「…。はいはい、分かったよ。」
ヨイショを口に出さないように、両腕に彼女を抱えて、持ち上げた。すかさず、彼の首に両手でしがみつき、耳元で
「今度は、死んじゃ駄目だからね!」
「お前もな。2人で生きるんだ。」
「うん。」
“折角結婚できたのだから。”
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