第23話 何でこんなところにいるのですの?

「あなた!大丈夫?」

 青息吐息のオズワルドを心配して抱きかかえながら、“きゃー!私ったら、お兄ちゃんに、貴方とよんでいる!”と心の中で叫んでいた。

 二人は戦場にいた。国の西南部に、魔族の侵攻があり、急ぎ、その地域を守る砦に救援軍が派遣された。その名目上の司令官に、オズワルドが任命された。その後詰めの本隊と全軍の司令官には、アラン王太子が就いた。当然だろう。王族が、形式的にであろうとも、戦いの先頭に立たなければならないし、アラン王太子の安全な初陣をさせなければならないからである。ただ、異なっていたのは、メリーウェザーがオズワルドにくっついてきたことである。魔法攻撃を無効化出来ることを根拠に、国王に直訴したのだ。意外とあっさり許可され、国王から王家所蔵の聖魔法具を、オズワルドとともに貸与されたのだ。

 戦いは一歩先手をとるように、オズワルドの軍が、魔族の軍より先に砦に来着出来た。準備万端迎え撃ったが、激しい戦いの末、守りきり、魔族の軍を後退させることが出来た。しかし、オズワルドの軍も多数の死傷者が出た。オズワルドは、しかし、かすり傷以上の怪我はなかった。その彼が青息吐息なのは、聖魔法騎士のスミスが、重傷を負ったため、必死で回復魔法をかけたからである。スミスは、誰もが認める国第一の聖魔法騎士であり、前線での指揮官としても第一の者である。それを失ったら、いや、当分戦線離脱したら、戦力は著しく低下するだけでなく、それ以上に士気が低下してしまう。魔軍は後退しただけで、退却したわけではない。こちらの状況次第で、攻撃してくるだろう。そうなると、本隊のアラン王太子の安全も脅かされる。王家貸与の聖具、魔力増幅器の腕輪もあり、何とかスミスを回復させることが出来た。その代償がこれであった。

「王子!申し訳ありません!」

 回復出来たスミスは、土下座して叫んだ。

「あなたに、我が軍の運命がかかっているのだから、当然のことだ。」

 こうなったのは、彼だけでなく、他の者に、10人以上の重傷者にも回復魔法を施したせいでもあるのだから。

「王子様。あまりご無理しないようにして下さい。」

と言われてしまった。

「あなた。本当に無理したら、かえって迷惑がかかるのでから、自重して下さい。」

「奥方様もです。」

「え?」

 メリーウェザーは、砦の前面に立って、魔族の魔法攻撃を無効化したのである。 

 砦の上からで、比較的安全な場所であったが、十何匹の小型ドラゴンに乗った魔族が砦の中に侵入し、メリーウェザーを襲った。隊長クラスの魔族が大きな斧を振り下ろしたが、彼女の無効化魔法は物理攻撃にも幸い効果があり、彼女は傷ひとつなく助かった。この時、周囲の兵士達はドラゴンとの戦闘に忙殺されていたが、幸いオズワルドがすかさず、隊長クラスの魔族に逆回復魔法を発動させて倒し、残りの魔族相手に、2人と2人の護衛騎士達が奮戦している間に、救援の部隊がやって来た、魔族達を全滅させた。ドラゴンからの炎も彼女が度々防いだし、オズワルドも一匹のドラゴンに逆回復をかけて、怯んだところを剣で止めをさしている。随分貢献しているというのが、メリーウェザーの本音だったが、将軍の考えは違った。

「無効化の魔法は限界があり、より強い魔法、より強い物理的攻撃なら無効化出来ないのですよ。」

“は~い。はい、はい。”メリーウェザーは、将軍の言葉を頭の上を通り過ぎるのを待つ思いだった。将軍の心配は当然であり、本当に彼女を、オズワルドを心配しているのである、ということはわかっている。2人のどちらか、又は一方でも死んだら、責任問題になるし、士気ががた落ちになるということもあるが、駄々っ子を心配する好好爺の姿も感じられた。当人もそうした思いだった。

 しかし、そう言っていられない状態になった。

 魔族の軍が、総攻撃の夜襲をかけてきたのである。再三再四の攻撃を撃退され、かなりの損害を受けている。相手側の援軍の本隊も近づいている。攻略に成功しても、損害が大きければ、本隊とは戦えるものではなくなる、撤退しようとして、追撃されたら全滅しかねない。そんな危ない賭けはするだろうかと思いつつも、準備はしていた。魔軍の司令官は、このまま、早々に引き揚げる不名誉よりも、砦を落として、早急に撤退することを選んだのだ、追撃される危険があっても。早々に撤退した場合、砦側から追撃の兵は出なかったろうに。備えは、十分していた。が、魔軍は降り注ぐ、矢槍、石、魔法攻撃による損害をものともせず、死体の山を作りながら、突き進み、城門にたどり着き、そこで夥しい死者を出しながらも、城門を突破して、砦の中に突入した。

「熱!痛!」

 高位の魔剣が振り下ろされて、さすがに全ての魔力を無効化出来ず火傷をしたし、物質の攻撃もゼロには出来ず、聖剣で受け止めたものの、痛みを感じた。相手は、幹部クラスの獣人顔の巨漢だった。状況は、彼女だけ護られて安全に、という状況ではなかった。1人倒して、逃げようとしたところで襲われた。皆は、彼女を守ろうとし、彼女を逃がしたのだが、そこにも魔族が来たのである。“次が来たら、もうだめ!”と思ったところで、目の前の魔族が倒れた。どこから飛び出してきたのか、オズワルドが魔族の巨漢に抱きつき、逆回復で倒したのである。

「おに…オズワルド!」

と叫んで、今度はメリーウェザーがオズワルドに抱きついた。上司を救おと駆けつけた魔族の騎士の剣を無効化して、オズワルドを助けた。オズワルドは、即座に倒れた魔族の将に聖剣を突き刺した。大きなうめき声をあげたが、彼は最後の力を振り絞って、オズワルドを振り払って、立ち上がった。

「お兄ちゃん。あぶない!」

と叫んでメリーウェザーが飛び込んできた。魔族の将の渾身の魔剣の一撃を無効化して、聖剣を突き刺した。その彼女を襲おうとした魔族の将兵をオズワルドが聖剣で薙ぎ払った。そして、2人の聖剣が彼に止めをさした。周囲の魔族は逃げ出して、何とか落ち着いた。それを境に、魔軍はようやく退却を始めた。

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