第21話 私は微妙な魔法、お兄様は聖女様みたいだし

 「きゃ!」

 「メリー!」

 その言葉は、少し間が抜けてしまった。言葉が、皆の耳に届いた時には、魔法弾の衝撃と閃光は消え、メリーウェザーが何ら変わらない姿でたたずんでいたからである。誰もが、

「?」

 一番驚いたのは、魔法弾を放った魔道士だったろうが、一番早く我に帰ったのはオズワルドだった。腰の儀仗刀を抜いて魔道士に叩きつけた。勿論儀仗刀だから斬ることはできないが、思いっきり叩きつければ、気絶、怪我をさせられなくても、一時的に戦闘不能、怯ませることはできる。が、届かなかった。防御障壁が張られていたのだ。事前に張っていたのだろう。遅れて、剣を抜いて踊りかかった衛兵達が、魔法弾で吹っ飛ばされた。魔道士がオズワルドの方に顔を向けたので、慌ててメリーウェザーは、魔道士の方に走った。

「消えてしまえ!」

 魔法障壁に触ると、光を発して消えた。すかさず、駈け寄ったオズワルドとメリーが、魔道士を殴りつける。よろめいたところを、今度は渾身の力を込めて、

「16文キック!」

 何時の時代の言葉だ、と二人は互いに、心の中で突っ込んだ。“そう言えば、再出版された〇〇〇ーマスクを読んでいた!”魔道士は、声も出る間もなく倒れた。すかさずオズワルドが、うめき声をあげる彼の体に手を載せた。体が痙攣して静かになった。

「しばらくはこれでいい。こいつを縛り上げてくれ。」

とどこからだしたのか、紐をメリーウェザーに手渡した。そして、自分は、先程倒れた衛兵のところに駈け寄った。

「お兄、オズワルド。回復魔法が、使えるの?」

 手足を縛り上げながら、メリーが驚きの声を上げた。

「応急処置程度のな。」

 衛兵が目を覚ますと、彼は他の者達を呼んで来るように命じた。

「聖女様みたいね。」

 悪戯っぽい笑いを浮かべて、他の衛兵達に回復魔法を施している彼のそばに歩み寄った彼女は、“あっ”と言って

「魔導師にかけたのは?」

「回復魔法の応用だ。こちらも、気絶させる程度。それより、お前のは?」

「初めてなのよ。私は、火系の魔法だと思っていたんだけど、自分のは。魔法無効化の魔法も使えたなんて、知らなかった。」

「いや、あれは魔法だけでなく、物質も含めた攻撃の無効化かも。」

 火炎弾は、発生後も魔法で半ば維持されるとはいえ、物質化しているのも事実。メリーのは完全に消滅させていたので、全くダメージを受けなかったのだ。無効化魔法は、相手の魔法力の行使した直後に消滅、無効化するものである。

「凄い。戦士にこそふさわしいんだが。それに比べて。」

とオズワルドは言ったが、応急処置のレベルですらできる者は少ないし、何人もそれができる者はさらに少ない。まして、応用だといっても、気絶程度であっても、それができる者は知らない。

 

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