第16話 ここは、臭い台詞を

 オズワルドは、彼に向かって深く頭を下げるセイと軽く頭を下げるアラン王子の前に跪き、

「セイ・アート殿。一度は伴侶として思ったのですから、あなた様のお幸せを心から祈っております。」

 一旦間を置いてから、

「王太子アラン様、今回、私達の我がままをお許しになっていただき、心から感謝しております。」

 ここで、さらには深々と頭を下げ、

「これよりは、メリーウェザーとともに、国のため、民のために、国王陛下、王太子ご夫妻に忠勤を励む所存です。」

 アラン達には自分達の恩義少し釘を刺しつつ、彼のため、外に対しては彼を立てるように、アランから恩義を与えられたように言った。

 慌ててメリーウェザーも隣に来て、跪いて、深々と頭を下げた。

“臭い台詞を。”

 チラッと、オズワルドを睨んだ。

 ここには、メリーウェザーとオズワルドの侍女や護衛がいる。彼らから、ここでの会話が100%機密が守られるとは有り得ない。外で誰かが立ち聞きしている者が、良きにつけ悪しきにつけいるかもしれない。

“王太子の腹違いの兄としての建前を示しておかないとな。二人の破滅が、破滅にならないように。”

 宴が全て終わると、2人目は悪友、親友達に冷やかされながら、

オズワルドは頬を膨らました妹達の涙をためつつ、不満いっぱいの顔を、メリーウェザーはひたすら寂しがる、涙を流す兄にみまもられながらも礼を述べて別れを告げた。

 馬車で、二人の新居、互いの新たな別邸ともいえる。王都の端に近いところにある、アート男爵がエバンズ公爵に献上し、エバンズ公爵が二人の結婚祝いにあらためて献上したものである。本当は、セイのオズワルドへの嫁入りに、アート男爵が用意したものだ。身分差から、正妻ではなく、第二夫人となることを想定した邸宅であるから、そういう立場をぎりぎり考慮したもので、王太子ではない王子と公爵家長女である正夫人の邸宅としては、どうかなという格式、規模である、裕福なアート男爵家として、至る所に豪華で細密な造りとなっており、家具にしても同様であるが。とはいえ、数ヶ月後のアラン王子・王太子とセイの結婚のこと、あちらの格式を上まわらないようにという配慮もあり、これでよいということになった。二人の間では簡単に了解されたが、二人にとっては簡単な方がよかったからだが、政府内では中々話が進まなかった。宰相以下、前例、格式規定やら、ああでもない、こうでもないとうるさかった。オズワルドもアランも、このことでも、

「大変だったのですよ!」

と母親達から、恩着せがましく言われている。 

 馬車の中では、二人は、

「妹様達は、今日は自分達と過ごしてくれないのと、不満そうでしたわね!」

“シスコン!”

「兄上は、離れるのが辛そうだったな。」

“ブラコン!”

「何ですの?未練たっぷりでしたわね?」

「君にそのまま返したいね、その言葉!」

 度々睨み合っていた。二人の侍女達は、主人の言葉に、大いに同意しながらも、ハラハラしたが、二人はそれ以上は踏み込まず、少し不機嫌そうな顔をしていた。

 新居では、二人の侍女、執事、使用人、護衛達が待ち構えていた。

 着替え、入浴し、お茶を二人はテーブルで向かいあって飲んだ。

「ご寝室の準備もできております。」

「分かった。では、行くかね?」

「ええ、何時でも。」

“まるで決闘のようでは?”

 起ち上がって、睨み合った二人に侍女達はまた、ハラハラした。侍女達に案内されて二人は寝室に向かった。二人は、それぞれ新居を事前に一度ならず訪れていたが、事前に隅々まで把握している彼女達の比ではなかったから、彼女達に黙って従った。

 寝室に入ると、侍女達は頭を深々と下げ、ドアを閉めた。バタンと音をたててドアが閉まると、二人は2mほとの距離をとって対峙した。

「ふぅー。」

 大きく深呼吸した、二人は。そして、夜着になっている互いを見つめた。オズワルドが一歩歩み寄った。それを合図にするように、メリーウェザーが飛びついた。

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