第15話 セイに言ってやりましたわ!かっこ良かったでしょう?

 オズワルドの花嫁に、メリーウェザー・エバンズが現れると、会場から、どよめきが起こった。セイ・アートとの結婚式と噂されていた日に、同じ会場で、アート男爵家が積極的に動いていたこともあり、セイがエバンズ家の養女となったことやオズワルドとメリーウェザーに近い人間から発信中された話を耳にしても、まだ半信半疑の者が、大半だった。メリーの親友のドミニク・シトロン嬢などに、探りを入れて来る、娘達に行かせるわけだが、学友も多かった。噂を流した張本人だったが、彼女達は、惚けたり、焦らしたりしながら、情報の切れはしを流した。それもあって、大きなどよめき程度で収まったのであるが。二人の地位からすれば、慎ましい、質素な式だったが、あくまでも二人のような身分にとっては、であり、十分華やかな式はとどこおりなく進んだ。アート男爵にとっては、エバンズ家への最初のご奉公でもあった。司祭からの祝福、誓いの言葉の交換、そして国王から始まる祝福の言葉。

「メリーウェザー!本当に他人のものになってしまうんだね!」

と兄ユーシスは、宴の前に着がえる終わって、あらためて家族に挨拶した彼女に、涙声で声をかけた。オズワルドの方は、いつも憎まれ口を叩く、妹達に泣いてすがりつかれていた。

 その後、オズワルドとともに客人に、各国からの大使達もいたが、に愛想を振りまいた。最後の挨拶前に別室で、オズワルドが迎えに来たところに、アランとセイがやって来た。

「メリーウェザー様、私は…。」

「いいこと、セイ!」

 凄まじい形相で、セイを指さした。思わず、セイはほんの少し身をこわばらし、アランはセイを守ろうと身構えかけたほどだった。

「あなたは、理由はどうあれ、私から婚約者を奪ったのですからね。」

 一呼吸置いて、

「絶対!幸せにおなりなさい!それから。」

と続けて、表情を一変させて、

「私のことは、お姉さまでしょう~?」

 また、表情を厳しくして、アランを見据えて、

「アラン王子!とにかく、この私を捨てたのですから。」

「いや、捨てたなどとは。」

「ですからね、絶対、セイを幸せにしないと許しませんことよ!」

 それから、二人の手を握って、

「どちらとも、形はどうあれ、私の弟妹になったのですから、幸せになってくださいませ。そうでなければ、応援した甲斐がありませんから。」

 聖母のような慈愛を、出来るだけ込めた微笑みを浮かべた。

「メリーウェザー様、お姉さま。ありがとうございます。」

「メリーウェザー…。君にはずっと励まされてばかりだった。姉のように慕っていた。…、メリーウェザーお姉さま、お約束、必ず守ります。」

 二人は、涙ぐんでさえいた。

“何?婚約者を、姉のようにしか思っていなかったって訳?少し面白くないわね。”

と思いつつも、笑顔を何とか保っていると、小さな咳払いがした。

振りかえると、オズワルドが3人を見ていた。

 それを見て、3人は手を離して、彼の方を見た。メリーは、彼の方に歩み寄った。二人に背を向けて、オズワルドの方に向けられた彼女の表情は、“どう?かっこ良かったでしょう?”と自信満々で、“後で褒めてよね!”というものだった。胸も張っていた。

 彼の方はというと、分からないくらい微かに苦笑を浮かべて“かっこ良かったよ。”と言っているように思われた、少なくともメリーウェザーにはそう見えた。



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