第14話 俺が悪役だったから、彼女達も

 オズワルド王子。第二王子だが、腹違いで、王妃エリザベスの長男である第一王子が早くに亡くなったため、年齢から言えば、実際は第一王子である。しかし、母が王妃ではなかったため、王太子は王妃の次男アラン第三王子となった。そして、アランが第一王子、オズワルドが第二王子ということになった、公式では。それに対する僻み、コンプレックスから、性格は歪み、悪い取り巻き達を引き連れ悪事を働き、父国王から度々叱責され、それでさらに性格を歪めるという悪循環を繰り返した。ヒロインのいじめ役の一人でもあり、王太子を追い落す陰謀や勇者に対する陰謀などろくなことをしない悪党だった。母、貴妃エカテリーナは、ヒロインや王妃達を追い落とそうとする陰謀を始終繰り返し、不品行の息子を正そうとはせず、半ば見捨てつつ、半ば彼を王位につけようと暗躍していた。妹達は、駄目兄を軽視し、自分達が代わって権力を目指して暗躍、姉妹同士でさえ争い、殺しあった。別の見方をするとオズワルド王子より、逞しい悪党、悪役だった。

“今は違うな。”とオズワルドはホッとする思いだった。母は、王妃と争ってはいたが、国のためにならない争いはしない良識を持っている。妹達は、兄に対して辛口だが、悪意はなく、根は優しい娘達である。

“オズワルドが、ひねくれた悪役だったから、彼女らが毒婦になった。本当は、彼を思う愛情が歪んだのかもしれないな。” そう思うと、つい妹達を見つめてしまった。

「お兄様。何で私を見つめているの?」

「兄上が、見つめているのは私。」

 二人が、互いに不満そうに相手を見た。

「二人とも、我が妹ながら、美人だなとあらためて思ったのさ。」

 二人は真っ赤になって下を向いた。実は、ブラコンなのである。

「セイが、本当の娘だったらよかったのにね~。」

「同感だよ。しみじみセイが妹だったら、と思っちゃうよ。」

「ひどいわよ、お母様、お兄様!」

 メリーウェザーが、母と兄に抗議した。

 セイが、エバンズ家の養女となったお披露目も終わり、アラン王太子と結婚し、王太子宮に入る前の数ヶ月をエバンズ家で過ごすため、セイがやって来てから数日が過ぎた夕食の際、母と兄にメリーはからかわれて、それに調子を合わせた。

「メリーウェザー様には、在学中はいじめから助けていただきましたし、高貴なご友人の方々の輪に入れていただいたりして、楽しい学園生活を過ごせました。メリーウェザー様がいなかったらと思うと、怖くなります。」

 セイは、3人のやり取りが分かってはいたが、あくまでもメリーへの感謝を口にした。

“こんなことを言いながら、私の婚約者を寝取るんだから~。まあ、結果、オーライだからいいけど。”

「セイ。この際だから、言っておきますけどね。」

 怖い顔をして、メリーはセイの方に顔を向けた。

「私…。」

 あまりの悪役顔に、さすがにセイは不安になった。“この人は、本当は、悪人なのでは?”

「私のことは、お姉様とお呼びなさい。あなたは、私の自慢の妹になったんですから。」

 後半には、のほほ~んといった感じの笑顔になって、首を傾け、“お願い、呼んで、お姉様って、お願い、お願い”と言うように、重ね合わせた両手を右耳にあてた。その目にもは、“お姉様と呼んで、呼んで!早く!”と言っているようだった。おずおずと、

「はい。…メリーウェザー…お姉様。」

 嬉しそうに頷くメリーウェザーを見て、3歳年上でややがっしりした体型で、黒髪を短く刈り込んだユーシスが、

「私のことも、お兄様と呼んでくれないか?」

「あなたまで、いいかげんなさい。ところで、御母様と呼んでくれない?」

 エバンズ公爵は、クスクス笑っていた。“メリーウェザー様。私を溶け込まそうと。やっぱり、賢く、お優しい方。”セイは2人のたっての要望に応えながら、“メリーウェザーお姉様!”と心の中で何度も呼びかけた。

 ユーシスが、セイの呼びかけに、半ば感激したように喜んでいた。ちなみに彼は軽度の自覚していないシスコンである、

“セイと過ごしたら、オズワルドは直ぐに蕩けてしまったわね。危ない、危ない。”優しく、美しいだけでなく、人を虜にする全てを持っている女だと感じた。ただ、誠実で、他人を助けようとするところが強い等善人の要素もばっちり持っている。それがなければ、毒婦、魔性の女である。逆に、ずる賢い、どう行動すれば一番いいかを常に考えて行動しているところがある。そういう悪がない、善人は単なる馬鹿で、厄介ものでしかないし、頼りにならない。頼りになるといえば、セイは頼りになりそうだ。こちらに悪意がないこと、害にならないことは分かる女だ。油断をすると足元をすくわれる宮廷の争いを仕掛けられることはない、少なくともかなりの確率でない、そしてメリーウェザーには、全くその気はない。

「オズワルド様の妹様達は、少し意地悪でした。やはり、大好きなお兄様を取られると思って、寂しかったのではと、今では思えます。」

 セイの言葉に、メリーは思わずピクリとした。兄のユーシスが心配そうにメリーウェザーを見たのに気がついて、

「大丈夫!私、妹は多ければ、多いほどいいのですから!」

 胸を張って見せた。セイが微笑んで、

「メリーウェザーお姉様なら、きっと、素敵なお姉様が増えたと喜んでくれますわ。」

「そう…?それだというけど。」


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