第10話 お互いさ…
「あの、オズワルド様。」
メリーウェザーに付き添って来ている侍女が気づいた表情で、
「ご結婚前に、お嬢様の名誉を汚すようなことは。」
公爵家の侍女であるから、王族にも遠慮がない。皆のやり取りを部屋の隅で聴いていて心配になったのだ。
「オズワルド様に。」
今度は、オズワルドの侍女が、眉間をヒクヒクさせながら、彼女の前に立ち塞がった。
「心配する気持は分かる。未来の妻に彼女に忠義な侍女がいてくれて嬉しいよ。では、部屋の扉は開けておくから、私が変なことをしようとしたら、飛び込んで止めてくれ。盆で頭を叩くくらいのことは許そうじゃないか。」
自分の侍女が何か言い出す前に笑いながら言った。
「さあ、エバンズ嬢。」
と言って、自分から部屋に入った。
「お嬢様。大丈夫ですか?」
「ダイジョウブ…大丈夫よ!」
ようやく気を取り直したメリーウェザーは力強く答えて、彼の後に従った。直ぐに、一瞬躊躇したものの、二人の侍女は並んで、外から部屋の中をのぞき込んだ。
ドサッと長椅子に座ったオズワルドは、テーブルを挟んだ長椅子の前に、立つメリーウェザーに向かって、侍女達に聞こえない声で、
「これだけの美人で、性格が悪くないから楽勝だと思えるが、やはりヒロインは最強ということだった訳だ。同情するよ、悪役令嬢メリーウェザー様!」
「何ですの?人のことを悪役令嬢だなんて…え?…ということはあなたもまさか…。」
“こいつも転生者?”
きっと睨みつけた。
「シミュレーションゲーム、恋愛も冒険も、乙女と、又は貴公子とともにと同じ世界、悪役王子オズワルド?」
彼女も小さな声で言った。オズワルドは小さく頷くと、椅子を指し示して、
「そうだ。令和の日本からだよ。まあ、座ってくれ。立たれたままでは話し辛い。」
“そうなのか。”悪役令嬢の表情になり、ドンと腰を落とし、足を組んで、両腕を背もたれに回そうとして、侍女が見ていることを思い出して、慌てて身を正した。顔だけは、美しいが歪んだ笑いを浮かべていた。
「そうよ。何となく気が付きはじめたのは、6歳の頃だったかしらね。でも、知識を理解できなくて、破滅する運命にあるということだけは分かったわ。よい子でないといけない、わがままや好き嫌いはいけないとかそんなことしか分からなかったわ。何とか分かってきたのは、10歳くらいになってから、何をすべきか、何をしてはいけないのかが、はっきり分かったのは、魔法学園に入学する少し前だったわ。セイを苛めるメリーウェザーにはならないこと、二人が恋仲になったら邪魔しないということにしたわ。油断したわ。二人が接近する様子はなかったし、私もアラン様への好感度アップに努めて、成果は上々だと感じていたんだけどね。あんたの言うとおり、ヒロインには敵わなかったって訳ね。それで、あんたはどうなの?」
切り返しを受けたオズワルドは、
「まあ、あまり変わらないさ。駄目男にならないように努力して…後は、俺はセイに辛くあたるゲス男だから、アラン様とセイを守り、二人の愛を成就させてと思っていたら、俺とセイの婚礼がドンドン進む、二人の仲は進んでいないようだった。アラン様とお前の仲も極めて良好に見えたし、セイと上手くやるのもいいかな、要は俺がセイをちゃんと幸せにする、愛するのならいいんだと思うようになっていた矢先だよ、あれは。全く、ヒロインと主人公には敵わないもんだな、全く。」
二人は大きな溜息をついた。
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