第9話 あ~大事なことを忘れていた~

「それで、私達が呼ばれた理由なのですが…。」

 ドミニクが、事の次第の説明が終わったところで、おずおずと声を上げた。

「事前に、ある程度情報を流しておいてほしいんだよ。」

オズワルドが説明し始めた。今、この事態を発表すると色々な憶測が飛び交ってしまう。セイとオズワルドの結婚式のはずが、オズワルドの隣にいるのがメリーウェザーだったら、

「パニックになってしまいますわよね、きっと。」

 メリーが、口を挟んだ。一月後にセイとオズワルドとの結婚式、数ヶ月後にアランとメリーウェザーの結婚式の予定だった。セイが17歳の内に、アランが18歳になってからということで決められたものだった。女は17歳までに結婚した方がよい、男は18歳過ぎてから妻をもらうべきだという慣習からだった。魔法学校卒業した年のうちに結婚する女性も多いし、魔法学校に入学したため、名誉なこととはいえ、婚期が遅れがちになると言われてもいる。とはいえ、庶民はもっと早いし、貴族もそうならない場合が多い。実際、ここにいる女達の誰もまだ結婚していないし、男の中の一人は卒業後すぐに結婚している。全ては家の事情、婚約者の事情によるので嫁き遅れたわけではない、メリーウェザー同様。

「オズワルド様は、アラン様が不義密通したという話しにならないようにしたい訳ですね。」

 グランが、呆れたように言った。

「セイ殿も不義密通の相手という不名誉を、与えたくないんだよ。」

「女を取られたと、いう不名誉も隠したいのではありませんこと?」

 ドミが辛辣なことを、辛辣な表情で言い放った。今回のことで、彼女はメリーのためにかなり怒っていた。オズワルドの側の者達が立ち上がりかけ、メリーウェザーに対する攻撃の言葉を投げかけかけたが、

「シトロン嬢、言われる通りだよ。アラン様は弟だし、王太子なんだ。セイ殿は一度は嫁と思った女性なんだよ。そういう2人を悪い噂で苦しめたくないのだよ。」

 にっこり笑って、まあ、勘弁してくれという感じで答えたので、ドミニクもそれ以上言えなくなった。

「悪いけど、何とか上手いことを言ってちょうだい。丸投げで申し訳ないけど。」

 頼むから、という表情のメリーウェザーを見て、一同はそれ以上文句を言えなかった。あとは、冗談などの言い合いとなって時間が過ぎた。

「でも、キャサリンやイボンヌを呼ばなかったんですか?」

 そっとプランタンが、メリーに囁いた。

「あの娘達は、私がアラン様の婚約者だから付き合ってくれていたからね。」

“よく見ていたんだ。”プランタンは、メリーを見直した。“皇太子妃としてやっていけたろうに。”

 彼女のそんな目を理解出来た。“私だって、頑張ったんだから。でも、ここで固執したら間違いなく破滅フラグを引き寄せるから。じゃなければ、こんな男なんかと。”とまで思った時、“オズワルド…って…、あれ、悪い噂はなかったけど、悪さも見てもいないけど…あれ?”思い出せそうで、思い出せなかった。その時、

「来月にはエバンズ嬢とベッドインですか。今だから言いますけど、あこがれでいたんですよ。それでもう?」

「馬鹿。高貴な家の令嬢にそんな非礼はせんよ。」

「じゃあ、結婚初夜が待ち遠しいということですね。」

と笑い声を交えた会話が聞こえた。

“へ?何?結婚…初夜?…。忘れていた!アランとのことは数ヶ月後のことだったし、破滅回避のことに夢中で、そんなことは忘れていた。来月には裸になって…、きゃ~!”目が点になりかけていた。

「メリーウェザー様。大丈夫ですか?顔色が良くないような?」

「だ、大丈夫よ!」

 その時、気が付くと、集まりは散開となり、皆が帰り始めていた。彼女も友と並ぼうとすると、腕を取られて、

「エバンズ嬢とは、今後のことでもう少し話しがあるんだ。」

 オズワルドが、ニヤリと意味ありげな顔をして言った。

「殿下?」

 サンスベールが疑わしいな、とニヤリとした。

「オズワルド様!」

 ドミニクをはじめ、令嬢達が睨んだ。

「大丈夫だよ。王宮内で、紳士、君子以外にはなれないだろう?」

“来月…、結婚初夜…、裸になって…。メリーウェザーは、目が点のままだった。”

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