第8話 何とか今のところは上手くいったかな

 美しい黒髪の貴妃エカテリーナの前に立ったオズワルドは、セイの王太子との結婚、自分とメリーウェザーとの結婚の許しを乞うた。エカテリーナも、それで大体のことを察してくれた、というか察してしまった。彼女も、落ち着いた色のガウンを夜着の上に羽織り、穏やかな表情で我が子に質問を投げかけた。オズワルドは、それに必死に答えた。

「私は、アート嬢の性格の良さも気に入って、この話を承諾したのですが。」

“母上。許して下さいよ~。”

 それから、メリーウェザーの方を見た。

“え?私?”

「アート嬢をいじめや嫌がらせから守り、優しくしてくれていましたね。公爵家を鼻にかけず、アラン様の奥方に相応しい、さすが王妃様のお眼鏡にかかった娘と思っていました。それに、卒業後は、領地経営に関心が出たとおっしゃって、領内各地をまわり、領民達とも親しげに接し、自ら彼らの仕事を共にしたり、訴えをお聴きになったとか。」

「お…恐れ入ります。」

 真っ白になりかける頭の中から、何とか言葉をひねり出した。

“何で、私のことまで、そんなによく知っているのよ~?”

 もう一度息子を見た。

「母より先に、王妃様にご相談申し上げるとは、王妃様にご無礼ではないかと考えなかったのですか?」

 オズワルドが口を開ける前に、

「あの~、オズワルド王子は、貴妃様は、王妃様にご無礼がないようにと考えていますと言われておりましたので、それから~王妃様もオズワルド様の配慮を誉めていました…。」

 メリーウェザーは、つい口が出てしまった。後悔したが、それは遅かった。貴妃エカテリーナは、大きな溜息をついた。そして、セイを見て、

「あなたには、申し訳ないことをしました。私の浅慮を許して下さい。」

と頭を下げた。

「私の方こそ、皆様からのご厚意をこのような形で、ご迷惑という形でお返しすることになり、申し訳なく思っています。」

 セイは、深々と頭を下げた。

 それから、メリーウェザーの方に顔を向け、 

「こういう形になり申し訳なく思っています。オズワルドのことをよろしくお願いしますね。」

「はい!分かりました。」

 気の利いた言葉が出てこなかった。最後に、息子の方に顔を向け、

「今すぐ、王妃様の元を訪れ、お前とエバンズ嬢のことをお願いに行きましょう。」

 そのままのいでたちで、エカテリーナは部屋を出た。4人は急いでそれに続いた。王妃エリザベスは、先ほどと同様な姿で待っていた。

「王妃様。夜分、突然の来訪、ご無礼いたします。」

とエカテリーナが頭を下げれば、エリザベスは、

「こちらこそ、お呼び立てしたようで申し訳なく感じています。」

と頭を下げた。まず、エカテリーナが息子のオズワルドとメリーウェザーとの結婚の許しを乞い、その後にエリザベスがアランとセイとのことを謝り、二人の結婚に許しを求めた。二人は、互いに手を握りあい、感謝を述べあった。手を取り合って、国王のもとに行き、今回のことの許可を求めた。もちろん、愛妾達の願いを聞き入れないはずはなかった。聖女のような微笑を浮かべている二人から、ひしひしと怒りというか、威圧感が感じられた。

“また、ちびってしまった。こ、こ、怖い…。”

“随分濡れたような…、臭わないわよね…。早く逃げたいよ~。”

 国王と両妃と4人の前に、エバンズ公爵夫妻、アート男爵夫妻が呼ばれ、事の次第を説明され、両妃から了解を求められた。エバンズ夫人が声をあげて少しばかり抗議したものの、両家とも損ではないこともあり、エバンズ夫人もそのことは分かっていたから、直ぐに鉾を納めたのである。

「アート男爵。エバンズ公爵の恩義に、かの公を本家と思い、つくすように。メリーウェザー殿、オズワルドのことをよろしく頼みますよ。」

「セイ殿。メリーウェザーを、本当の姉、エバンズ夫妻を父母と思い仕えなさい、分かりましたね。」

 最後に、

「我が息子のため苦労をかけ申し訳ない。」

 両妃が深々と頭を下げて、全てが決まった。

“早く帰って、下着を取り替えて、入浴して、ベッドで寝たい。”

 もう取りあえず、何も考えたくなかった。

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