第7話 恐かったですわ。…もらしちゃいましたわ…

「それで、王妃様と貴妃様は快く許していただいたというわけですのね?」

 プランタンが、窺うように尋ねた。“みんな、そう思うわよね、普通は。”実際、彼女もそういう印象を王妃にいだいていた。彼女より、会ったことがはるかに少ないドミニク達が、優しい王妃様というイメージを持つのは当然だと思った。その時のことを説明するために思いだすと、二人の顔は、ド~ンと暗くなった。それを見ても皆が気がつくことがない様子に、かえってふたりの方が思わず引いてしまった。

“恐かった。”二人ともそう思った。

“俺なんか、ちびったよ。”

“私は漏れちゃっいましたわ。”

 まず、王妃から始めた。あの日の夜、王宮の王妃の部屋に直行した。もちろん事前にアランが訪問の連絡をしていた。

「夜に、何の用事なのですか?」

 夜着の上に、ガウンを羽織って現れた、アラン似の美しい髪の王妃エリザベスは、4人を軽くにらんでから、豪華な彫刻で飾られた長椅子に腰掛けた。

「王妃様。アラン様とセイを結婚させて下さい。」

 唐突に、口から吐き出すように嘆願したのはメリーだった。一瞬、

「は?」

という顔をした王妃だったが、目の前の4人を見て、オズワルドとセイの関係も知っていたから、全ての事情を察してしまった。まず、メリーウェザーとオズワルドの方を向いて、

「あなた方には、感謝します。息子の不始末に、寛大な態度をとっていただいたのですね。」

と頭を下げた。

「いえ、私は…。」

 言葉がまとまらないメリーウェザーを横目に、オズワルドが、

「メリーウェザー嬢が、愛し合う者を守りたいとおっしゃり、その心意気に従ったまでのこと。」

深々と頭を下げたので,慌ててメリーウェザーもそれにならった。それから、息子の方に向き直って、

「こんなに素晴らしい婚約者と兄上を、裏切るとはどういうつもりですか!王太子としての自覚がないのですか。臣民の模範に立つべき立場の者が何ということでしょう!」

 さらにこんこんとお説教してから、セイの方を見た。セイはというと、背筋を伸ばし、怯んだ様子など微塵もみうけられなかった。

「あなたのことは、よく聞いていますよ。理知的で性格も良く優しく、責任感の強い方と聞いておりますよ。今回のことは、アランが申し訳ありませんでした。」 

 彼女は王妃の言葉にしっかりとした態度で、

「アラン様を好きになってしまい、それが皆様にご迷惑をおかけいたしました。メリーウェザー様、オズワルド様には感謝しても、しても,し足りないと思っております。」

 エリザベスはその言葉に大きく頷いた。

「これから、どのようにするつもりですか?」

 オズワルドが説明した。すると王妃は、

「では、私がエカテリーナ様に頭をまず下げるということなのですね。我が子の不始末です。それが当然ですね。よいでしょう。直ぐにお伺いしましょう。」

 穏やかそうな表情だったが、冷たいものをメリーウェザーは感じた。当然オズワルドも感じていた。

“これって本音は、自分から頭を下げたくないといってるのよね?”

“母上に来させないといけないか、やっぱり…。”

 メリーウェザーとオズワルドの意識が通じ合ってしまった。

「それでは、我が母に私が叱責されるでしょう。自分の方から、王妃様にお願いに行くのが筋であると必ず申すことでしょう。ここは、どうか、お待ちいただけませんか?」

 跪きながら、オズワルドは必死にという風情で王妃エリザベスに嘆願した。

「そうですか。オズワルド様、母上様に、エカテリーナ様によろしくお伝え下さい。」

 

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