第5話 不自然ではなかったでしょう?
王立魔法学校の卒業式が、終わって生徒達や父母達が校庭に出ると小さなざわめきが広がっていった。王太子アランとアート男爵家令嬢セイが連れだって歩いていたからだった。二人とも婚約者がいる身であるのにだ。
「王太子様は、どういうつもりかしら?」
誰ともなく、そんなささやきをもらした。しかし、じきに皆は納得した。二人の歩く先に止まっていた馬車から、オズワルド王子とエバンズ公爵家令嬢メリーウェザーが降り立ち、二人を迎えたからだ。オズワルドとメリーウェザーは、アランに頭を下げてから、それぞれの婚約者の手を取り、馬車の中に消えた。オズワルドとアランは異母兄弟であり、メリーウェザーとオズワルドはこの学校の卒業生である。メリーウェザーとセイは、近いうちに義理の姉妹になるのだから、オズワルド達が迎えに来て、それをアラン達が一緒に待っていた。そう解釈出来た。一応納得はされたが、何か違和感が残った。その4人の乗る馬車を追って何台かの馬車が走り出した。
「あら、アラン様の部屋にいくのではありませんの?」
王宮の中の王族達、特に国王の家族達が暮らす場所の廊下を3人の貴族の令嬢と一人の若者が王宮の役人の後について歩いていた。
「エバンズ公爵令嬢のご指示でございます。」
それだけしか、中年の男は言わなかった。彼らは、皆伯爵家の出身者であるが、王宮には、しかもここまで奥には滅多に入ったことはない。しかも、何度か入ったのは、王太子アランの婚約者のメリーウェザー・エバンズの学友、親友ということで入れたのである。王宮に後できてもらいたいという、メリーの依頼を喜んで受けて、かつ、母校の卒業式にも顔を出したのである。いつもとちがう部屋に入ると、
「みんな、よく来てくれましたわね。」
メリーウェザーが迎えたが、アランの姿はなく、さらに部屋には既に何人かの男女がいた。男が3人と女が一人。4人は、女も含め騎士の礼服を着ていた。親しくはないが、見覚えがある顔だった。
「アラン王子の兄上のオズワルド王子と御親友よ。あなた達も座って。」
アラン王子の部屋の調度品と比べると一ランク落ちることは直ぐ分かった。彼らは、分かるだけ、よいものに囲まれる生活をしていた。“王太子とその他王子、王女の差ね。”と4人は思いながら、オズワルド王子達を見た。だから、メリーウェザーから、アラン王子とセイが恋仲になっていたから、彼女に王太子を譲って、彼女をエバンズ家の養女にして、自分はアラン王子の異母兄のオズワルド王子、セイの嫁ぎ先、と結婚すると説明すると、パイ伯爵家のリュシェンヌなどは、
「それでよろしいのですの?あまりに人が良すぎるのではありませんの?」
と立ち上がって叫んだがくらいである。他の3人も口には出さなかったが、思いは同じだという顔だった。
“そりゃ私だって悔しいわ、残念よ!”元々は、3歳年上のアランの実兄の婚約者に、物心つかない頃に婚約、彼女が5歳の時、彼は流行病で死に、そのままアランの婚約者となったのである。メリーウェザーが可哀想だということもあったが、せっかくの関係が壊れるのは困るという大人の事情とアランの兄の死という不幸を帳消しにするという厄除け、彼は死んでいない、初めからアランだったのだということにしたかったというのもあった。しかし、そんなことは彼女にとって関係はなかった。ずっと婚約者と言われ、一つ下の弟のように接して、家族、使用人以外では、もっとも親しい相手だった。“アランのため、悪役令嬢にならないように努力したし、嫌いじゃなかったのよね。”
オズワルド王子とたまたま合って話をしていたのをアランに見つかり、後で
「兄上と何を話していたのですか?」
笑顔で尋ねられた時は、“しまった!”と思いつつも、“これって焼き餅?”と嬉しく思いもした。ここで好印象を、好感度アッブと考えて、もじもじした素振りをして、
「御免なさい。でも、アラン様が私のいない時は、王宮でどう過ごしているか知りたかったものですから。」
実際、オズワルドにそのことを尋ねたのは事実ではあった。それを聞いて、アランは優しく手を握ってくれた。“ヒロインのセイに優しくして、それでアランとセイの接触を阻止したと思っていたのに。”だから、ショックではあるし、悔しいし、残念無念ではある。“しかし、破滅するよりいいのよ!”
「リュシェンヌ。あなたの気持は嬉しいですわ。でも、ここで家柄を利用して、婚約者の権利を乱用する野暮なことは、恥ずかしくて出来ませんわ。エバンズ公爵家の名誉のためにもできませんわ。それに、私はアラン様も、セイも大好きでしたから。」
“ああ!なんて恥ずかしいセリフを言っているのよ、私ったら。”
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