第3話 取り換えればいいのですわ!

「じゃあ決まりね。これで、解決ということでいいわね!」

 メリーは、勝ち誇ったような顔をした。そのドヤ顔のメリーウェザーに、

「おい、おい。それだけで解決はしないぞ。」

 オズワルドが、立ち上がった。異母弟の王太子アランより、少し背が高く、やや粗削りな容姿、顔で、歳はメリーより一つ上だった。彼とは4年間の学校生活が重なっているが、さほど接触はなく、たまにアランとともに短い話をしただけであった。“こうやって見ると、ちょっと威圧感があるわね。”なによ、という顔で彼女は見返した。

「なにが、まだあるのよ?まさか、セイにまだ未練があると言うんじゃないわよね?」

 彼は、頭をかきながら、

「まあ、彼女を手放すのは辛い、本音を言えばだが。そのことじゃない。」

「何よ。いやらしいわね。早く言いなさいよ。」

 アランとセイは、睨み合うように対峙している二人を手を握りながら、ハラハラして眺めていた。二人とも、なにをしでかすか分からないところがある、とアランとセイは怖くなっていた。

“でも、兄さんは道理が分かる人だから。”“メリーウェザー様は、最後は人の話を分かってくれる…はず…。”

「アート男爵家は、娘がエバンズ公爵家の養女になるわ、王太子妃になるわで、大喜びだろうが、お前の親達は、どうだ?」

「へ?」

「実の娘が婚約者を寝取られて売れ残るわ、王太子、ひいては次期国王の外戚としての地位が目減りするんだし、その上その次の国王の身体にはエバンズ家の血が流れてはいないんだぞ。」

「何よ。売れ残るとか、随分ひどい言い方ね。」

 文句は言ったが、彼女にも分かった。彼女の両親は、領地の経営等に熱心で、官位とか役職にはあまり執着はしていなかったが、それでも、そちらの方面に全く無欲というわけではない。それなりに必要だし、しっかり求めていた。それは一族全体の利益とも、領地その他の経営にも関係しているからだ。王太子との結婚を待ち望んでいることも確かだった。それだけでなく、アラン王太子の容姿、性格を気に入っており、娘を幸せにしてくれると思っているのも事実だった。あと1年弱となったアランとの結婚式の準備に、当事者のメリーよりはるかに夢中になっている。特に、母はそうだった。

「かくいう俺の方も似たようなものだ。アート男爵家は、新興ながら、かなり豊かだ。後ろ盾にして悪い相手ではない。それを、ただで王太子に取られたというのでは、母上が怒り狂うだろうな。」

 「母上」という言葉に、アランの表情も曇った。

「ん~。」

 メリーもさすがに唸った。しかし、直ぐに表情が明るくなった。

「そうだ。取り換えちゃえばいいんですわ。ん、それで解決よ!」

「は?」 

 王子二人とも、あっけに取られた。

「つまり、メリーウェザー様とオズワルド様が結婚し、エバンズ家に養女となった私が王太子様と結婚するということ…ですね。」

 セイが皆に説明するように、話をまとめるように、呟くでもなく言った。

「おい、そんなこと、…、いや、意外にいいアイデアかもしれないな。俺はエバンズ家を一応、後ろ盾にできるし、エバンズ公爵も王家に食い込むことが一応できるし、まあ、悪くないか。」

 肯きながら、オズワルドが呟いた。それから、メリーウェザーを値踏みでもするかのように、頭から足の指の作業まで眺めた。悪い噂は聴いていない、どちらかというとセイを嫌がらせから守ったとか、いい噂の方が多かった。

「まあ、こちらも悪くはないかな。」

「何よ?こっちだって、妥協の産物なんですのよ。」

 また、彼女はにらみ返した。

 行き当たりばったりの考えではあったが、メリーウェザーにも、考えがなかったわけではない。王宮には、エバンズ公爵家令嬢であり、王太子の婚約者として、頻繁に出入りしている。友人知人は、皆貴族、有力者の子女である。なんといっても、両親はエバンズ公爵夫妻である。王族、王宮、政府高官などの噂などが常に入っている。オズワルドの噂は頻繁に耳にしている。ゲームでは、最低男のオズワルドだが、悪い噂は聞こえてこなかった。札付きの不良で、悪い取り巻きを連れて、女癖も悪く、暴力、権力を笠に着た傍若無人な行為は耳にしていなかった。弟である王太子のアランを常にたててきたし、そこそこ優秀で、軍人を目指している、アラン共々品行方正で、関係も良い、好人物で、見た目も悪くないが、地味過ぎて、あまり女生徒の人気はない。それがあったので、即座に交換を提案したのである。

「分かったよ。明日から、忙しくなるな。」

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