第14話

 三井倉庫港運事件(最高裁第一小法廷平成元年12月14日)という裁判例が存在する。人事関係者か労働組合関係者ぐらいしか知らないだろう。判決の要旨は次の通りだ。




「ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効である」




 単純に言えば、ユニオン・ショップ協定には抜け穴があるということになる。


 この最高裁の判例は、ユニオン・ショップ協定によっても「組合選択の自由及び他の労働組合の団結権」は侵害されないということ示している。そのため、ユニオン・ショップ協定のある会社が、ユニオン・ショップ協定を理由に労働者を解雇することができるのは「組合員が労働組合から脱退・除名され、かつ、他の労働組合にも属していない場合」に限られる。よって、会社には一つしか労働組合が無かったとしても、社外に存在する労働組合に加入していれば、ユニオン・ショップ協定、その労働者は解雇できないということになる。


 この内容を知っている労働者、すなわち会社の従業員はほとんど存在しない。そして、労働組合の役員も、労働者である一般の従業員にあえてこの情報を伝えることは無い。自分達の組織を危うくするだけだからだ。ユニオン・ショップ協定の抜け穴を教えるのは外部の労働組合だけだ。銀行業界を狙う外部の労働組合も存在する。


 田嶋は頭の中でユニオン・ショップ協定の知識をおさらいした。


 山階は自信ありげに微笑んだままだ。

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