2-5

「なにしに来たの?」

 部室に戻った俺を桜嵐が睨み付ける。

 俺は何も言わず、桜嵐の前に猫耳がついたような箱を置いて、広げた。

 すると怪訝な顔をしていた桜嵐の顔がぱあっと明るくなる。

 どうやら先輩に勧められて買ったさくらんぼのタルト(四百円)が気に入ったらしい。

 舞姫に千円借りててよかったー。無一文になったけど。

 箱の蓋を閉じると桜嵐は物欲しそうに俺を見上げた。

「悪かった。お前が言ったように俺はゲームを舐めてたよ。そんな気はなくても、世間じゃそう思ってるからって偏見を自分の意見に重ねてた。ごめん」

 俺は一度頭を下げ、再び桜嵐を見つめた。

「だから俺を許してくれたらこのタルトをやるよ」

「なによそれ! なんで謝る方が偉そうなのよ!」

「いやだって、許さないでタルト食う方がおかしいだろ。まあいいよ。許してくれないなら俺が食うから」

 俺がタルトに手を伸ばすと、桜嵐の小さな手が手首を掴んだ。

「許すから! だからその汚い手であたしのタルトを汚さないで!」

「まあ、そこまで言うなら許されてやるよ」

「ああもう! マジでむかつく!」

 なんて言いながらも桜嵐はタルトを食べると満面の笑みを浮かべる。

 森口先輩様々だった。

 なんとか許してもらった俺は言われた通りにモニターの前に座った。

「よし。教えろ」

「あんたもう一回叩かれたいの?」

 桜嵐がムカムカしながらも子猫くらいなら入れそうな箱を俺の膝の上に置く。

「これ、アケコン。あたしの私物だから優しく使ってよ」

 アケコンと呼ばれた箱にはゲーセンと同じレバー、ボタンが付いていた。

「分かった。お前だと思って優しくするよ」

「キモいからやめて」

「とにかく俺はやる気満々なんだ! さあ教えてくれ! どんなことでもやってやる!」

「はいはい。そのやる気が続くといいけど」

 そう言って桜嵐はアルカディアを起動させ、トレーニングモードを始めた。

「ここで技を安定して出せるまでひたすらやって。自分が出したい時に出したい技を出す。これが格ゲーの基本中の基本だから。十回やって十回成功する。それができたら次に進んでもいいわ。それまではずっと反復練習」

「……なんかそれ、面白くなさそうなんだけど」

「面白いとか面白くないはゲームで遊ぶ人の考え。本気で勝ちたいなら上手くなる為に努力して。返事は?」

「……うっす」

 可愛い顔して意外とスパルタだ。

 そのあと俺は言われた通りにひたすらトレモを繰り返した。

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