2-3

「じゃ、じゃあまずは相手したげる。それである程度実力は分かるから」

「ん? いやもうやったじゃん。俺の百円をものの見事に強奪しただろ?」

「え? ゲーセンで? あーそっか。今は対面で座らなくても店舗内対戦できるから分からなかった。で、なに使ってたの?」

「たしか主人公っぽい奴。えっとアユム?」

 桜嵐は首を傾げ、思い出すように右上を眺め、そして「あ」と漏らした。

「あれってトレーニング用のダミーじゃなかったの?」

 俺はガクッと肩を落とす。まあ、なにもできなかったわけだし、そう思われても仕方がないんだけど。それにしてもあまりにも手厳しい評価だった。

「そのトレーニング用のダミーが俺です」

「あ……。なんかごめん。そっか。ガチ初心者なんだ。う~ん。まあやってればその内上手くなるとは思うけど、あんたたしか一ヶ月後に試合するとか言ってたわよね? 大会出るの?」

「いや。舞姫と戦うんだ」

 俺が舞姫と言った瞬間、部室は静まりかえった。呼吸を忘れたような沈黙が溢れる。その沈黙はなによりも雄弁だった。

 みんなは互いの顔を見合った。

 すると森口先輩が優しく笑う。

「そうだ。私ドーナツを作ってきたの。みんなで食べましょう」

「わーい。あたしドーナツ大好きー」

「じゃあ僕はお茶を入れるね」

「おいッ! なんだその諦めて他のことしようぜ感はッ!」

 俺が立ち上がってつっこむと三人はこくんと頷いて、ハモった。

「だって無理だし」

「無理じゃねえよ! そりゃあ俺は初心者だし、今はまだ下手かもしれないけど、一ヶ月も本気でやればなんとかなるだろ?」

 すると瀬那先輩は苦笑し、森口先輩は「あーあ」と残念そうにし、桜嵐は俺を睨んだ。

 桜嵐は怒った顔で立ち上がり、俺に顔を突き出した。

「あんた。ゲーム舐めてんの?」

「はあ? 舐めてねえよ。だからこうやって教えてもらおうと――」

「それが舐めてるって言ってんのっ! 一ヶ月で舞姫を倒す? そんなの本気なら絶対に出てこない台詞だわ。あんた。野球初心者が一ヶ月で甲子園目指すって言ったらどう思うの?」

「え? 無理だろ」

「それと同じ。あんたはゲームなら少しの努力でなんとかなるって思ってんのよ。それが舐めてる以外なんだっていうのよ!」

 桜嵐は今にも殴りかかりそうな勢いでまくし立て、俺が後退るとその分前に出てくる。

 確かにそうかもしれない。でも言われっぱなしは性に合わない。

「……なんだよそれ。フィジカルが必要なわけじゃないんだし、スポーツと比べんなよ。たかがゲームだろ」

 地雷を踏んだ気がした途端に桜嵐の張り手が俺の頬を叩く。

 気持ちが良いほど綺麗な音がした。

「ゲームを舐めるなッ! 帰れッ!」

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