2-2

「で、万里君は格ゲーがやりたいんだよね? タイトルは? 決まってる?」

 瀬那先輩に尋ねられ、俺は頷いて買ってきたゲームを見せた。

「アルカディアです。これで一ヶ月後に対戦することになったんすけど、どう練習したらいいか分からなくて。ここなら教えてくれると思ったんすけど」

 俺の言葉に瀬那先輩と森口先輩は困ったように顔を見合わせた。

「えっとね。僕達は確かにeスポーツ部なんだけど、それぞれやってるタイトルや種類がバラバラなんだ。僕が主にFPSやTPSのシューティングで」

「私はカードゲームなのよねぇ」

 森口先輩は谷間からカードを取り出した。

「eスポーツと言っても色々あるの。スポーツゲームやレースゲーム。MOBAにタイムアタックなんかもそうねぇ。カードゲームなら手取り足取り教えてあげるけど、興味はない?」

「はい。ないっす」

 俺がきっぱり言うと森口先輩は頬をぷくーっと膨らませた。

 悪いけど舞姫と戦う為に寄り道してる暇はない。

 瀬那先輩は話に加わりたくなさそうな桜嵐の方を向いて、ニコリと笑う。

「じゃあ、うちで格ゲーやってるのは桜嵐ちゃんだけだし、教えてあげてくれる?」

 桜嵐はあからさまに不服そうにした。

「え? マジですか……? なんでもできるんだから副部長が教えた方がいいんじゃ?」

「僕は基本感覚派だから。口で言っても伝わらないと思うよ。ね? 桜嵐ちゃんも身内で対戦できたら嬉しいでしょ?」

「べつに今はオンラインでいくらでもできますし、必要だったらゲーセン行けばいいですから。べつに対戦相手には困ってません。それに……、あたしは……」

「なら諦めてカードゲームしましょうよ。今なら秘密のデッキ圧縮術を教えちゃうわ」

 森口先輩が復活し、俺の押し付け合いが始まった。

 だが俺にはこんなものを見ている暇はなかった。

 自分には足りない物が多すぎて、なにが足りないかすら分かってない。こんな状況で舞姫に勝てるわけがない。

 俺は立ち上がり、桜嵐の目の前まで行くと、深々と頭を下げた。

「頼む。勝たなくちゃいけない相手がいるんだ。だから、俺に格ゲーを教えてくれ……!」

 俺はポケットから飴とラムネを取り出した。

「ゲーセンで取ったお菓子も付ける」

「べつにいらないって」

 桜嵐は小さく溜息をつき、むっとしたまま腕を組んだ。

「仕方ないわね……。なら基本的なとこだけ教えてあげるわ。あとは自分でやってよ?」

「おう。助かる」

 俺は顔を上げて歯を見せて笑った。すると桜嵐は少し照れ、モニターの方を向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る