2-1

 おかしい。ここが部室のはずだ。大会やったのに。

 俺がふてくされながら空を見ていると、隣の部屋から話し声が聞こえた。

 その中に聞き覚えのある声が二つ混じっている。金髪先輩と桜嵐さくらんの声だ。

 俺が大急ぎで廊下を走りそちらの部屋を開けると、小さな部屋の中に三人の男女がいた。

 三人の内二人は副部長と桜嵐だった。あと一人は女だ。リボンの色からして二年だろう。

 おっとりとした瞳に整った顔立ち。長いふわふわとした髪をさらりとかき分け、見たことないほど大きな胸を机に乗せている。

 女は俺を見て品のある柔和な笑みを浮かべた。

「あら。どちら様?」

「矢倉万里です。俺に格ゲーを教えて下さい!」

「う~ん。それはそちらの誠意次第ねえ」

 女は微笑んだまま色っぽく唇に人差し指を置いた。

「まずは入部代として五千円ほど払ってもらおうかしら」

「ご、五千円!? い、いや、俺、今マジで金がなくてですね」

 俺が本気で慌てていると、金髪先輩が苦笑して「こらこら」と女をたしなめる。

「ごめんね。冗談だから。こいつ、人をからかうのが好きなんだ」

「やだ。もうバラしちゃうの? 瀬那君って面白くないんだから」

 せなと呼ばれた金髪先輩は立ち上がると笑顔のまま俺のところまで歩いて来た。

「やあ。随分早かったね。べつに明日でもよかったのに。まあいいや。僕は殊能瀬那。瀬那って呼んで」

「はあ……」

「で、あそこにいる胸の大きいのが森口絵風」

「エフちゃんって呼んでね♪」

 森口先輩は色っぽく笑った。瀬那先輩は次に桜嵐の方を向く。

「それであっちは西尾桜嵐ちゃん。二人はクラスメイトだったりする?」

「いえ。会ったこともありません」と桜嵐は冷たく言う。

「そっか。僕が副部長で森口が部長なんだ。三年は受験で忙しいから来てない。あと一応もう一人、超部長ってのがいるけど、まあそれは今度でいっか。いつ来るか分からないし」

 超部長? なんだそのサイヤ人みたいな役職は?

「まあゆっくりしなよ。新入部員はいつだって大歓迎だから」

 そりゃあこんだけ少ないとな。なんて思いながら俺は薦められたパイプ椅子に座り、教室を見回した。

 狭い。四人しかいないのに窮屈さを感じる。壁際には机が五つ並べられ、それぞれにモニターが乗っかっている。足下にはゲームハードやPCが置かれ、それがモニターと繋がっていた。

 壁際には棚が置いてあり、そこにはゲームや攻略本、グッズ類などがぎっしりと陳列されている。

 学校の一室をゲームオタクがジャックしたらこうなりました感が強すぎる部屋だった。

 こんなところがあるなんて今まで全然知らなかった。

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