1-5

「…………よりにもよってまた女かよ」

 意外にもそこにいたのは女子高生だった。しかも俺と同じ西高だ。

 どうやら最近の俺には女難の相が出ているらしい。

 しかし女と言っても舞姫とは随分違う。前髪をぱっつんと揃え、ショートボブにしている。体も小さい。少々目つきは悪いが、舞姫のような余裕は感じられない。

 俺はこっそりと後ろに行き、名前を見ると『さくらんぼ』と書かれていた。

 これもニックネームだろうな。どうやら対戦ゲーマーはニックネームをつけるのが大好きらしい。俺も格好いいの考えとかないと。

「万里の頂上……。お、頂上だけにトップなんてどうだ? いや、矢倉だけにランサーとか? 二つ合わせて……トップランサー。お、格好よくね?」

「なあにぶつくさ言ってるんですか? 副部長? ……ってやば」

 独り言を言っていた俺にさくらんぼはウザそうな顔で振り向き、どうやら人違いしたらしく恥ずかしそうに前を向く。

 ん? 副部長?

 俺はそのワードを不思議に思い、さくらんぼを凝視した。

 こいつ、どこかで見たことが…………………あ。ゲーム大会にいた女だ。たしか進行役の男を補助していた。

「なあ、えっと、さくらんぼ。お前も舞姫の仲間なのか?」

「はあ? あんな子と一緒にしないで! あたし達はeスポ部。あの子は入ってないわ」

 なにか気にくわないことを言ったのか、さくらんぼは怒っていた。

「あ、そうなのか。なんかよく分からないけどすまん」

 俺が頭の後ろを掻いて謝るとさくらんぼはふんっとそっぽを向いた。赤い頬が本当にさくらんぼみたいだ。よく見ると髪飾りもさくらんぼだし。どんだけ好きなんだよ。

 俺はしばらくさくらんぼのプレーを見ていた。やっぱりこいつは上手い。舞姫ほどの圧倒的な強さはないが、なんていうか普通に上手い。

 俺が腕を組んで後ろから眺めていると勝利したさくらんぼがキッと睨む。

「そんなとこでベガ立ちしないで。気が散るでしょ!」

「ベガ? あー悪い。けどお前上手いしさ。参考になるかなって思って」

 俺が本心でそう言うとさっきまでイライラしていたさくらんぼは態度を急変させる。

「う、上手い? ……へ、へえ。分かってるじゃない。そうよね。あたしは下手じゃなわ。いいわ。そこまで言うならちょっとくらいなら見せてあげる」

「おう。助かる」

 とは言ったものの、やはり何をしてるかさっぱり分からん。動きが速すぎる。

 すると見たことのある笑顔がこっちにやって来た。いつぞやのゲーム大会で進行役を務めていた金髪の先輩だ。

「あ。万里君だっけ? 君もアルカディア勢なの?」

「いや、俺は今日初めてやって。でもやっぱりいきなりはきついっすね。こいつにボコられました」

 俺がさくらんぼの頭を後ろから指差すと先輩はニコリと笑った。

「そりゃあ桜嵐ちゃんはうちのエースだからね。と言っても今は桜嵐ちゃんしかアルカディア勢がいないんだけど。僕はFPSが中心だし、舞姫ちゃんも逃がしちゃったから」

 先輩は相変わらず爽やかな笑顔を振りまいていた。

 なるほど。さくらんだからさくらんぼね。それに舞姫はゲーム部に入ってはいないらしい。あんなに上手いのになんでだろうか?

 桜嵐がふっちょに負けて悔しがっていると先輩が肩を叩いた。

「アプデで変わったとこは分かった? そろそろ部室戻ろっか? 部長も待ってるし」

「あ、はい。わざわざ付き合わせてすいません。こういうのはやってみないとあれなんで」

 桜嵐は申し訳なさそうに頭を下げながら鞄を持って立ち上がった。

 去り際に先輩はにっこり笑って俺に手を振った。

「じゃあ僕らはこれで。君も本気でゲームをやるつもりがあったらうちに来てよ。歓迎するからさ」

 そう言って先輩は階段を降りていった。桜嵐は通りすがりに俺をちらっと見るだけだ。

 俺はただ小さく会釈するだけで、どうしようかと頭を悩ませた。

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