1-4
「なあ。これ必殺技ってどうやって出すの? 俺初めてでさ」
すると小太りの男は俺を見て、自分を指差した。俺が頷くと、男は少し困った顔をしてから渋々と教えだした。
「え、えっとね。レバーを動かしながら技を出すんだよ。コマンドを作るんだ」
「コマンドー?」
「あ、あー。じゃ、じゃあやってみるね」
そう言って男は汗を拭いてから操作を始める。俺は横から画面を覗き込んだ。
「ほら、こうやってレバーをくるっとしてからPボタンを押したら」
『スノーシューター!』と叫びながら白い髪の女の子が手の平から雪を出した。
「おおー。なるほど」
「わ、技表は横のボタン押したら出てくるから、そ、それを見たら分かるよ」
「あ、そうなんだ。サンキュー。えーとこれか。って多いな」
俺はずらっと並べられる技の数々にげんなりとした。
「お、多いけど、使う技って案外少ないから。大体は状況によって振る技って決まってて。ま、まあやってる内に分かると思うよ」
「そっか。ありがとな。俺、矢倉万里。あんたは?」
「ぼ、僕? 僕はえっと、『ふっちょ』でやってる」
「ふっちょ?」
「カード作ると名前を登録できるんだ。ほとんどの人がニックネームつけてる。だから本名知らないなんてゲーセンじゃ結構普通なんだ。ぼ、僕は太ってるから太っちょからとを抜いてふっちょ。あはは……」
ふっちょは汗を拭きながら照れて笑った。
どうやらゲーセンにはゲーセンの文化があるらしい。
俺はまあ、バンとかでいっか。カード作るかはまだ分からないけど。
変に感心しながら俺はふっちょに教えてもらった技表を見て、一つ一つ技を出していく。
だけどこれがなかなか難しい。やってるはずなのに技が出ない。
それをふっちょに聞くと「今のは遅いね。今度は早い。あと、正確なコマンドじゃないと技は出ないよ」と返ってきた。
「……難しいな」
「あはは……。大体みんなそこで躓くんだ。ぼ、僕も最初は出なかった。プロの人でも結構いるよ。最初は難しかったって。ま、まあ慣れだね」
そう言ってふっちょは対戦を始めた。横から見てると自分の思い通りにキャラを動かしているって感じがする。必殺技もスムーズに出ていた。
まあストスマの時もそうだったし、頑張るしかないか。
俺はとにかく練習だと技表を見ては技を出す練習をした。
すると、突如乱入があり、バトルモードに引きずり込まれる。
「マジかよ……。まだまともに技も出せねえのに……」
抵抗も虚しく、案の定見事にボコられた。画面は再び金を入れろとせびる。
俺が顔を歪めていると、隣で勝利したふっちょが苦笑する。
「あ、あはは……。ま、まあ最初はね……。こういうこと言うとあれだけど、ゲーセンって発表会なんだ」
「発表会?」
「そう。家で練習して、自分がどれだけ上手くなったかを確かめる場所みたいな感じ。家庭版と違ってゲーセンはお金取られるでしょ? だからみんな本気なんだよ」
「まあ、そうだよなぁ。安くねえもんな」
「か、勝ったらもう一回タダでやれるけどね。それも限度があるけど」
「なるほど。理屈は分かる。でもちょっとむかつくから相手見てくるわ」
腕を組んで話を聞いていた俺は立ち上がった。するとふっちょが慌てる。
「ぼ、暴力はダメだよ?」
「分かってるって。さーて、俺を倒した奴はだーれかなっと」
俺はぐるりと回って向こうの台に座る百円泥棒を発見した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます