第5話 かたかた

かたかた、かたかたかた。文字を打つのは好きだ。頭の中をよどみなく、そのまま吐き出す行為。私は今音楽の力を借りて文章を作っている。音楽を流し、カーテンをわずかな隙間を残してしめ、窓から一筋の光を受けて。文字を打つ手元は暗い。だが、この色味が、雰囲気が、音が。昔を形作らねば、私の脳は呼吸をしない。


私の脳は食事をしたがった。文字を喰わせろと奴は言った。それを叶えてやるだけだ。そのためにこの場所に戻ってきて文字を打っているのだから。書いてやる。満足するまで、私が供給してやろうじゃないか。だから喰え。もっと。呼吸をしろ。もっと。もっともっと湯水のごとく文字を喰らえ。早く生き返れ。私のはけ口になるために。はやく、はやく、はやく。


生き返れば、またあの場所に戻れるだろうか。そんなもの希望を前にしたため息でしかない。


私は生き返るのだ。決別したものを忘れないために。愛したものを再び拾い上げるために。予感があるんだ。私はいずれ彼を捨てる。


お前の希望をかなえてやる。だから私の役に立て。私の希望を叶えろ。等価交換だ。お前も対価をよこせ。はやく。

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