第26話 ついに最後のボスとの戦いだ
「……つ、ついに最後のボスとの戦いだ……」
重厚な両開きの扉を前に、僕は酷く緊張していた。
これまでの階層でも、ボスとの戦いはいずれも熾烈なものだった。
幸運にもすべて突破することができたけれど、次はこのダンジョンそのもののボス。
今までのように上手くいくとは限らない。
僕は意を決し、扉を強く押した。
重々しい音とともに扉が開いて、ボスがいる部屋が現れる。
「ど、どんなボスが出るんだろう」
僕はおっかなびっくり部屋の中へと立ち入った。
「……どこかに隠れているのかな?」
今のところ見当たらないけれど、警戒しながら前進していく。
「く、来るならこいっ……」
剣を構え、ボスを待ち構える。
「…………」
部屋に入って一分くらい経った。
「…………」
部屋に入って五分くらい経った。
「……………………?」
部屋に入って十分くらい経った。
「何でボスいないの!?」
全然でてこないんだけど!
今までのボスはだいたい部屋の真ん中辺りに陣取っていて、中に入るとすぐに動き出し、襲い掛かってきたのに。
と、そこで僕はようやくそのことに気づく。
「あれ? 扉、開いたままだよね?」
僕が入ってきた扉。
通常なら勝手に閉まって、ボスを倒すまで脱出することができなくなるはずだった。
なのに開いたまま。
それにもう一つ。
反対側にある扉。
通常ならボスを倒すと同時に自動で開き(つまりそれまでは閉まっている)、次の階層へと続いている。
なのにすでに開いていた。
「さ、先に進めってこと……?」
仕方がないので僕は奥へと進むことにした。
「攻略、しちゃった……?」
僕はダンジョンの入り口へと戻ってきていた。
「あれでよかったのかな? 最後のボスがいなかったけど……」
奥の扉の向こうにあったのは、謎の部屋。
そこで僕はダンジョン攻略の特典を与えられて、それから部屋の中にあった転移の魔法陣を使って帰還したのだった。
ま、まぁ、ちょっと腑に落ちないけど、無事攻略ってことでいいよね?
「お帰りなさいませ、勇者様」
「わっ?」
急に声をかけられ、僕は思わず飛び退いた。
いつの間にか、近くに王宮メイドのセリーヌさんが立っていた。
「ダンジョンを攻略なさったのですね?」
「あ、は、はい。どうにか……」
「おめでとうございます! さすが勇者様です!」
セリーヌさんはパチパチパチと拍手をしながら、心からと分かる祝福の言葉を送ってくれる。
体調不良のロザリナさんの代理として、途中から僕の身の回りの世話をしてくれているんだけれど、とてもそうは思えないくらいよく気が付く人だ。
僕がやりたいと思ったことをいつも先回りしてやってくれているし、びっくりさせられる。
それに不思議なことに、なぜか僕の好みのお茶だったり、僕の好みの味だったり、僕の好みの匂いだったりを知っていたりする。
まるで僕のお母さんみたいだ。
って、そんなこと言っちゃうと失礼だよね。
セリーヌさん、どう見てもまだ二十歳くらいだし、僕くらいの年齢の子供がいるはずもない。
あれ?
だけどよく見てみると、ちょっとお母さんに似ているような?
まぁ似ているだけだけど。
「お母さん、元気にしてるかなぁ……」
「っ!?」
あ、今もしかして声に出しちゃった?
「ご、ごめんなさい。ふと村に残してきた母のことを思い出しちゃって」
……恥ずかしい。
「い、いえ」
なぜか少し動揺したように目を泳がせているセリーヌさん。
そういえばさっき、物凄くビクッてしていたような……。
「勇者様はお母様のことが大好きなのですね?」
「え? は、はい、もちろんです」
「~~~~~~~っ」
僕が頷くと、なぜかセリーヌさんはぷるぷると身体を震わせた。
頑張って押えようとしているようだけれど、唇がむにゅむにゅと堪え切れずに動いている。
なんでセリーヌさんが嬉しそうなんだろう?
◇ ◇ ◇
彼女用に割り当てられた個室で、セルアはゴロゴロ転がりながら叫んでいた。
「う~~~~~~っ! リオンちゃんに面と向かって大好きって言われちゃいました~~~~~っ!」
本人は母親に言ったつもりはなかったのだが。
ドッタンバッタンドッタンバッタン!
「わたしもですぅ~~~~~っ! わたしもリオンちゃんのことが世界で一番大大大好きですよぉ~~~~~っ!」
息子は世界で一番とは言っていない。
ドッタンバッタンドッタンバッタン!
「どんなことがあってもリオンちゃんのことを傍で護り続けてあげますからね~~~~~~っ! 一緒に魔王を倒して、一緒におうちに帰りましょうよぉ~~~~~~~っ!」
……どうやらこの親バカ、魔王のところまで付いていくつもりらしい。
ドッタンバッタンドッタンバッタン!
ちなみにドッタンバッタンは、彼女が壁に激突する際に響く音である。
◇ ◇ ◇
「勇者リオンよ、よくぞ勇者の試練を乗り越えた。これでお主は正式な勇者だ。きっと魔王を倒してくれると我らは信じておる」
「は、はい!」
王様が威厳たっぷりに告げ、僕は緊張気味に返事をした。
ダンジョンを無事に攻略した僕は、いよいよ本格的な魔王討伐の旅に出発することになる。
最初はあまりの絢爛さに落ち着かなかったけれど、しばらく住むうちにここでの暮らしにも慣れてきていた。
お世話になった人たちとも、だんだんと仲良くなってきたところだった。
名残惜しいけれど、それでも僕は勇者だから行かなくちゃならない。
「出発は明日がよいだろう。今日はしっかりと休むのだ」
「はい!」
ところで僕が王宮に戻ってくる少し前に、びっくりするような事件が起こっていた。
騎士団長のブラットさんが捕まったのだ。
何でも、今までの悪事をいきなり王様の前で自白したらしい。
すぐに騎士団長の座を解任され、牢屋に入れられることになったそうだ。
あまりに突然のことだったためか、王宮内はまだ動揺が収まっていない。
「だ、大丈夫なのかな?」
まぁ僕は明日には出発しちゃうわけだし、心配しても仕方ないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます