第10話 ライブ当日

ーーライブ当日


「とうとう、この日がやって参りましたわね」


「あぁ、そうだな! メイデンちゃんなら絶対勝てる」


「はい、凛樹さん♡」


ライブの場所は、この前と同じ、渋谷のライブハウスだ。

このために、俺たちは準備を重ねてきた。


とか言いながら、ひたすらドSボイスを復唱させるというもので、そのせいで俺は全然寝られなかったんだけど……


やれやれ、アイドルの才能を引き出すのも、楽じゃないぜ......!


え、お前は好きなボイスを聴いていただけだろって?


うん、最高だった。



メイデンちゃんも、むしろいつもより元気だ。

俺と一緒にいられたのが嬉しかったんだろうか?


まったく、かわいいやつめ。


だから、今日の勝ちは確信してる。


フラグじゃないぞ!



ライブハウスに着くと、千明たちのファンが大勢いた。



『あいつがライバルか』


『なんだ、横にいる奴。プロデューサー気取りか?』


『ゆーて相手は一人だけだし、余裕だろw』



フン、今に見てるがいいさ。

お前らは全員、メイデンちゃんのとりこにされる運命なんだ!



「来たわね、凛樹。尻尾巻いて逃げるかと思ったわ」


楽屋の廊下で、千明と出くわした。


「お前らこそ、逃げずに恥かいても知らないぞ?」


「ムキーっ、今日は絶対勝つんだからね!」


そう吐き捨てて、楽屋に行ってしまった。


その様子を見ていたらしく、夏穂が

「あの、本当に今日は大丈夫でしょうか……」

と尋ねてきた。


俺の手を握ってくる夏穂ちゃん。

小さな手が冷たく震えている。


「ああ、大丈夫だ。夏穂ちゃんは何も心配せず、ライブを全力でやってくれれば、それでいい」


俺は夏穂ちゃんの頭を撫でる。


「わかりました! 凛樹さんを信じてますからね! メイデンさんも、今日は全力でライブ楽しみましょうね!」


「よろしく」

「望むところですわ」


いい子だな、夏穂ちゃん……

あんないい子を、悲しませるような目に合わせてはいけない。


元凶のあいつが、やってきた。


「よう、お前ら。俺たちの活躍のために、のこのこやって来るなんて、まったくおめでたいね」


千明たちのプロデューサーだ。


「ふん、ライブの後で泣いて謝ったって、許さないからな」


ハハハハハ、と笑う相手プロデューサー。


「今日の客はこの前と違って、全員が千明たちのファンだ。そんな状況で、どうやってお前らが勝つんだ?」


たしかに、普通ならこの状況で勝つのは難しいだろう。

だが、俺たちには秘策があった。


「ふっ、そんなことにこだわっているから、お前はあの子たちの魅力を見出せないのさ」


「何ィ……?」


「見てな、俺たちがお前に、本当のアイドルってのを教えてやるぜ!」


ヘッ、勝手にしろ! と言うと、やつはズカズカと去っていった。



そう、今日のライブは、ただ勝つのが目的ではない。

メイデンちゃんをトップアイドルにするためにも、今日はその伝説の1ページとなるようなものにしないといけない。


だから、千明たちにも最高のライブをしてもらわないといけない。


その上で、メイデンちゃんが勝つ!


それが、俺がアイドル業界を牛耳るために必要不可欠!



「今日はがんばって、あいつをギャフンと言わせてやりますわ!」


「あぁ、期待してる。そして、千明たちをあいつから救い出してやらないとな」


メイデンちゃんは何かを思い出したかのような顔になる。


「……やっぱりあなたは、お優しい方ですわねーー」



「ん、何か言ったか?」


「なんでもありませんわ! いっちょ、ガツンとブチかましてきますわ!」


あれ、語彙がなんか、だいぶ荒くなってない?


もしや、昨日のボイス集のせいか〜〜〜!?




一抹の不安を覚えながらも、メイデンちゃんを楽屋に送り出す。


俺は一応まだ一般人だから、今日は客席だ。


という訳で客席に行こうと思ったんだけど、


「凛樹さ〜ん、ちょっと来てくださいませ♡」


メイデンちゃんが楽屋から呼びかけてくる。


「おう、なんだー」


扉を開くと、そこには下着姿のメイデンちゃんが!


「……スマン!」


やばい、アイドルの下着姿見ちゃったよ。


「いいんですのよ♡ 一人で着られないので、手伝ってください♡」


こ、これはなんというイベント!


これからライブをするアイドルの下着姿を、まじまじと見られるだなんてーー


「じゃ、じゃあ、手伝っちゃおうかな♡」


「はい♡」


ーー俺は鼻血をこらえるので精一杯だった。

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