第8話 秘策
——解散!?
どうしてだろう。
この前のライブでは、あのグループはトリを張っていたというのに。
「この前のライブで、うちのプロデューサーが、ーーさっきあなた方に突っかかっていた人ですーーが、『あの女にもう一度負けたら、このグループは解散だ!』とか言い出して……」
なるほど。
あいつのことだ、ムキになって言いそうではある。
「社長は何も言わないのか?」
「社長は、『まぁなんとかなるから』って、傍観してます......」
あの社長は有能そうだったのに、何を考えているんだろう。
「でも、それを俺たちにどうしろと?」
「……っ、それは……」
千明たちのグループが解散しても、俺やメイデンちゃんが困ることは無い。
「無理なお願いだとは思うのですが、勝負に出ないでいただきたいんです」
やっぱり、そういうことだったか。
自分たちが負けると、わかっているのだ。
無理もない。
あのメイデンのライブを見たら、誰だって才能を感じざるを得ない。
「わたしは、ライブしたいですわ」
メイデンちゃんが呟く。
「だってそしたら、凛樹さんにもっと見てもらえるんですもの♡」
うつむく夏穂。
「でもそしたら、わたしたちは......」
「ふん、あなたたちの都合は関係ありませんわ」
たしかにメイデンちゃんの言うことはもっともだ。
だけど、千明と夏穂ちゃんがアイドルをやめることになるのも、なんだかモヤモヤする。
もしかすると、前の世界線で千明がアイドルとして日の目を見なかったのも、あのプロデューサーのせいかもしれない。
「そこをなんとか、お願いします! わたし、千明さんと離れたくないんです……!」
泣き出す夏穂。コーヒーカップの水面に反射した泣き顔が、揺れている。
まったく、こんなかわいい女の子を泣かせるなんて、勝負を言い出したプロデューサーは最低のやつだ。
自分のアイドルグループのことだというのに。
『千明さんと離れたくない』か……
俺もそうだな、好きな人——例えばメイデンちゃん——と離れるのは、嫌だ。
何かないか?
彼女たちが皆、幸せになる方法は——
俺は、前の世界線での記憶を思い出す。
メイデンちゃんがトップアイドルになったことで、何が起きた?
そうだ、たしか、あっちでは——
思いついたぞ!
千明と夏穂ちゃんが離れ離れにならずに済んで、なおかつ、メイデンちゃんが勝負に勝ち、鮮烈なデビューを果たすための方法を!
「大丈夫だ。安心して、俺がなんとかする」
「ほ、本当ですか!? わたし、千明さんと一緒にいるためなら、なんでもします!」
パッと顔が明るくなる夏穂。
「なんでもって笑」
「いえ、わたしが千明さんを思う気持ちだけは本物です!」
机に乗り出して、すごい気迫だ。
そんなに前に出られると、制服の隙間から、いろいろ見えちゃいそうな——
「凛樹さん、なに見てるんですかぁ〜?」
ヒィッ
メイデンちゃんにたしなめられてしまった。
「わ、見ないで下さい! このえっち! まったくもう、これだからあなたは……」
「悪い悪い笑」
「でも、どんな方法なんですか?」
気を取り直して、不思議そうに考える夏穂。
「そうだな、夏穂ちゃんがこれまで以上に千明と一緒にいられて、千明はこれまで以上に人気になる方法だ」
「そんなすごい方法が……わたしには見当もつきません……」
「ただ、とりあえず、勝負はやるよ」
「え。そしたら、わたしたちは......」
不安そうな顔になる夏穂。
「大丈夫、秘策がある」
俺は夏穂ちゃんの手を握ると、
「だから、約束が叶ったら、俺の言うことをなんでも、一つ聞いてくれるか?」
顔が真っ赤になる夏穂ちゃん。
「い、言ったでしょう。ち、千明さんのためだったら、わたしはなんだってします」
縮こまってしまった夏穂ちゃんもかわいいなぁ♡
とりあえず、交渉成立だ!
しかし、どこかしょんぼりしている夏穂ちゃん。
「うぅ、初めては千明さんって決めてたのに......」
あれ……?
夏穂ちゃん、何か勘違いしてない?!
「もーう、凛樹さんってば、やっぱり女の子たぶらかしてるじゃないですか〜!」
「いやいや、これは違うって! 大丈夫大丈夫、これはメイデンちゃんのためにもなることだから」
「本当ですの! さすが凛樹さんですわ! 惚れ直しちゃいますわ♡」
決まったぜ。
これであとは、メイデンちゃんを、勝負に勝たせるだけだ!
千明と、あのプロデューサーには悪いけど、今回も勝たせてもらおう。
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