第7話 勝負と危機
ーー放課後
この日千明は、朝以来話しかけてくることはなかった。
俺たちに対抗意識を燃やしているんだろう。
「帰りましょう、凛樹さん!♡」
「おう、メイデンちゃん」
「おい、そこのお前」
「ん?」
話しかけてきたのは、紫色の派手なスーツを着た男だった。
「うちのライブに乗り込んできたのはお前たちだな」
どうやら、この前のライブ関係者らしい。
「乗り込んでって、ただ客として行ったら、流れでライブすることになっただけだよ」
「ふん、そんなこと言って、俺たちのグループを邪魔するつもりだったんだろう? いいか、次は俺たちが勝つからな!」
男は吐き捨てると、車に乗って走り去って行った。
後部座席には千明が乗っていたが、こちらを見向きもしなかった。
なるほど、あいつは千明のプロデューサー 、といったところか。
それにしてもあの男、あれを言うためだけに俺につっかかって来たのか!?
プロデューサーってのも、案外暇なんだなぁ。
前の世界線でブラックサラリーマンをしていた俺には、ちょっと羨ましく思えた。
「なんだか、いやな男でしたわね!」
プンプン怒っているメイデンちゃん。
「あぁ、そうだな。あいつをギャフンと言わせてやろうぜ」
「もちろんですわ! 凛樹さんのために一肌脱ぎますわよ!」
「嬉しいな。でも、一肌脱ぐのは、俺の前だけにしてくれよな?♡」
「いやん、そっちの脱ぐ方なら、凛樹さんのためでしたらいくらでも脱ぎますわ♡」
今日もかわいい♡
って、ここでボタンを外し始めちゃダメだよメイデンちゃん!
「いやいや、ここで脱いじゃダメだよ!」
「あらあら、気がはやってしまいましたわ♡」
まったく、俺にゾッコンなのは嬉しいんだけど、手が焼けるぜ。
「あのー、お話ししてるところ申し訳ないんですが......」
後ろから透き通った声の少女が話しかけてきた。
話しかけてきたのは夏穂ちゃんだった。
千明と同じアイドルグループに所属している。
小型犬みたいなかわいさを持っていて、メイデンちゃんと同じ制服を着ていてるのに、夏穂はまだ中学生くらいのように見える。
「お、夏穂ちゃんじゃん。どうしたんだ。というか、同じ学校だったんだ」
「はい、お二人のことはよく見てました」
なんか視線を感じると思ってたけど、夏穂ちゃんの仕業だったのか。
かわいい顔して、ちょっとこわいぜ。
そういうところもそそるけど♡
「この前、あんな風に喧嘩を売って、申し訳ないと思ってます」
「なんですの、やけにしおらしいこと」
たしかに、この前と様子が違い過ぎる。
「何かあったのか?」
「いえ......それが、実は......」
あたりをキョロキョロ見渡す夏穂ちゃん。
「ここで話すのがアレだったら、どこか喫茶店でも行こうか」
「……はい、よろしくお願いします」
「もー、また女の子をたぶらかして〜。凛樹さん。わたしは凛樹さんと一緒に帰りたかったんですのよ〜」
「ごめんごめん、メイデンちゃん。何か訳ありっぽいからさ。一緒にパフェでも食べよう、な?」
「わーい♡ パフェ、大好きですわ♡」
メイデンちゃんが食べ物に弱くてよかった!
ーー喫茶店
街を歩いていると、美少女2人を連れている俺のことを見てチラチラと男たちが見てきた。
なんという優越感!
男の大半は、こんな美少女たちと一緒に喫茶店に行くことなんてないだろうな。
俺はすっかり機嫌が良くなっていた。
「好きなもの頼んでいいよ。かわいい女の子には奢るって決めてるんだ」
メイデンちゃんは特盛フルーツパフェとプリン、夏穂は遠慮したのか、コーヒーだけを頼んだ。
メイデンちゃん、頼みすぎ……財布が……
しかし、こういうところにも性格が出ていて面白い。
あんなにスイーツを食べても、メイデンちゃんの出るところは出ているけどスリムなボディは、いったいどういう仕組みなんだろう。
そういうところも、天性のものなんだろうな。
夏穂ちゃんは、注文もつつましいけど、スタイルもつつましい。
俺は好きだけどね! 夏穂ちゃんの、触ったら壊れちゃいそうな感じ。
「早速、相談なのですが……」
夏穂ちゃんはコーヒーに口もつけず、話し始めた。
「うん、話してよ」
「……私たち、解散させられちゃうかもしれないんです」
「「ええ!」」
メイデンちゃんが食べようとしていたいちごが、ポトっと机に落ちた。
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