第6話 宣戦布告

ーー月曜


昨日は、メイデンちゃんとのキスを思い出して、興奮しっぱなしだった……。

抱きしめたときのメイデンちゃん、柔らかかったな……それに、あのトロンとした顔。


前の世界線では遠巻きに見るだけだった俺が、メイデンちゃんのファーストキスを奪ってしまったのだ。


これほど独占欲がそそられるイベントはそうそうないと思う。



「おはようございます! 凛樹さん」


「お、おはよう」


メイデンちゃんは今日も迎えにきてくれた。


ここ一週間で分かったことはいくつかある。


まず、メイデンちゃんはうちの隣の一軒家で一人暮らしをしていること。両親が何をしているのかはわからない。


次に、メイデンちゃんの家はけっこう厳しい状態にあるらしいことだ。


前の世界線だと、メイデンちゃんはかなり裕福な家庭で育っていた。


そもそもメイデンちゃんがアイドルとしてデビューしたのも、ブランド品を身につけ、インスタに自撮りを上げていたメイデンちゃんが、ひょんなことからそのブランドのデザイナーに見出されたからだ。


前の世界線ではそうしてスターダムにのし上がったメイデンちゃんだが、この世界線では、彼女はかなり貧乏な暮らしをしているので、ブランド品は身につけていない。


そのせいで、ドSキャラも鳴りを潜めているのかもしれない。


苦労は人を優しくさせるんだろうか。

個人的には、俺をもっといじめてくれてもいいんだけど……♡



「……わたし、今でも恥ずかしいですわ♡」


顔を赤らめて、下を向いているメイデンちゃん。

この前のことを恥ずかしがっているらしい。


「こっち向いてよ、かわいい顔が見えないからさ」


そう言ってメイデンちゃんの顔をこちらに向けさせる。


照れ顔がかわいくて、つい朝のキスをしてしまった。


「いやん、こんなところで、恥ずかしいですわ……♡」


「これから、何度でもしようね」


「……はい♡」


さっきよりも顔が赤くなってしまった。かわいいやつめ。


俺はメイデンちゃんのあのライブを見て、彼女をトップアイドルにすることを決意していた。


なんでかというと、やっぱり、メイデンちゃんの魅力を独り占めするのは良くないと思ったからだ。


それに、大勢のファンがいるメイデンちゃんが、実は俺のことが大好きなんて、なんかめちゃくちゃ興奮するじゃん!


え、そっちがメインだろって? まぁまぁ。


とにかく、あの日のライブ(とキス)以来、この気持ちを抑えられなくなってしまったんだ。



「あんたたち、朝からイチャイチャしてるわね〜」


「!?」


後ろから声をかけてきたのは、千明だった。


「べ、別にいいだろう。両想いなんだから」


「ふ〜ん、わたしに告白しておいて、よく言うわね」


それを突かれると困る。


「千明さんは黙っていてくださいまし! 今は凛樹さんはわたしのものなんですわ♡」


メイデンちゃんはそう言うと、俺の腕をつかむ。

う、腕がやわらかいところに触れてますよ、メイデンさん。


「千明さんのライブの後に割り込んだことは謝りますわ。でも、凛樹さんは渡しませんのよ」


メイデンちゃんは千明にあっかんべーをしている。


千明はため息をつくと、

「はぁ、いいわよ、別に。わたしこそ、夏穂が迷惑かけたらしいし、ごめん」


「よ、よくってございましてよ」


千明に素直に謝られて、メイデンちゃんは動揺しているみたいだ。


「それで、何の用ですの?」


「そう、そのライブのことなんだけどーー」


メイデンちゃんがけげんな顔をする


「だからそれは申し訳なく思ってますわ」


「そうじゃなくて、あなたとはもっとちゃんと勝負したいの」


「「勝負??」」


俺とメイデンちゃんがハモる。


「えぇ。うちの社長があなたに声かけたらしいじゃない。でも、プロデューサーは認めてないらしいのよね。だからムキになって、直接対決させよう、って」


なんだそりゃ。


でも好都合だ。


上手くいけば、鮮烈なデビューができる。

メイデンちゃんトップアイドル化計画の第一歩だ。


「いいじゃないか、やろうよ、メイデンちゃん」


「う〜ん、凛樹さんが良いと言うのでしたら......」


もじもじするメイデンちゃん。


「じゃあ、決まりだな。でも、千明はいいのか?」


「……わたしも、やられっぱなしはイヤなのよ」


そうクールに言い放った千明の目は、メラメラと燃えているように見えた。


「見てなさい! 次はギャフンと言わせてやるわ!」


そう吐き捨てると、千明はスタスタと立ち去った。

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