第3話 デート
——放課後
「さて、誰をライブに誘おっかなぁ」
千明にはオタク友達でも誘えって言われたけど、タイムスリップしてきたばかりだし、誰を誘ったらいいかとか思い浮かばないんだよな。
「おつかれさまです。凛樹さん」
「おう、おつかれ、メイデンちゃん」
そうだ、メイデンちゃんをライブに誘うのはどうだろう。
でも、そのライブ、千明が出るんだよな。
来てくれる気がしない……
あ、たしか、一緒に靴を買いに行こうって約束してたよな。
靴を買いに誘って、そのままの流れでライブに誘おう!
「ねぇ、メイデンちゃん。今週の土曜、靴を買いに行こうよ」
「やったあ! もちろん行きます!」
ぱっ、と笑顔を見せるメイデンちゃん。
やっぱりこの笑顔は最高だなぁ。
何度見ても癒やされる。
千明のライブはたしか渋谷だったよな。
「よかった。じゃあ、渋谷のハチ公前待ち合わせで大丈夫かな?」
「わかりました! 楽しみにしてますね!」
メイデンちゃんとデートだなんて、前の世界線では想像もしてなかったなぁ。
嬉しすぎる!
「ぬぅ、千明さんだけでなく、あの女にまで手を出しているなんて……不届き者ですわね」
このときの凛樹も、そんな様子を見ていた少女がことに気が付かなかった。
——土曜日
「誰だ、あの女の子? アイドルであんな子いたっけ?」
「いや、知らねぇ。お前ナンパしてみろよw」
「えぇ、俺じゃ無理だろ」
待ち合わせ場所に着くと、メイデンちゃんを見て、こそこそと話をしている輩がわんさかいた。
無理もない。
本人は帽子をつけて隠しているつもりかもしれないが、白いワンピースを着ているだけであんなにも場が華やいでしまうあたり、天性のものを持っていると改めて感じられる。
そんなメイデンちゃんを独り占めできるなんて、なんて最高だぜ!
「よっ、メイデンちゃん。待った?」
「いえ、今ついたところですわ! さぁ、行きましょう。ここは落ち着かないですわ」
メイデンちゃんも周囲の輩に気づいていたらしい。当然か。
メイデンちゃんが振り返るだけで、甘い香りがして、幸せな気持ちになる。
メイデンちゃんを困らせるやつがいたら、俺が容赦しないぜ!
「凛樹さん、今日の服、いかがでしょう……?」
歩きながらメイデンちゃんが尋ねる。
「とっても清楚でかわいいよ! メイデンちゃんらしさがよく出てる」
「ふふっ、嬉しいですわ! あとは、凛樹さんが選んでくださる靴を履けば、間違いなしですわね♡」
ショップの靴売り場に着くと、俺は迷わずハイヒールを差し出した。
この日のために、一週間考え続けてきたのだ!
え、なんでかって?
そんなの、メイデンちゃんにハイヒールで踏まれたいからに決まってるでしょ!
「まぁ、素敵なハイヒール♡」
なんの疑いも持つことなく気に入ってくれたみたいだ。
ちょっと罪悪感……。
「ここで履いていってもよろしくて?」
「もちろんいいよ」
ハイヒールを履いた大人っぽくなったメイデンちゃんを見て、前の世界線でのメイデンちゃんの姿が蘇る。
「でも、俺は決めたんだ……この世界線では、二人で楽しくやっていきたいんだ」
「なにかおっしゃいましたか?」
「うぅん、なんでもないんだ。そうだ、これから、アイドルのライブがあるんだけど、一緒に来ない?」
「アイドル……?」
なにか思い当たるフシがあるようなメイデンちゃん。
「凛樹さんが行きたいところでしたら、もちろんお供しますわ♡」
たぶん、一瞬メイデンちゃんの顔が曇ったような気がしたのは、気のせいだろう。
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