第1話 運命の出会い

「あ、あのさ……」


「なんでしょう?」


くるっとターンし、身をかがませ、カーテシーをする彼女。

美少女にしか許されない動作だ。


「どうして、今日は迎えに来てくれたの?」


ずっと気になっていたことを聞いてみた。


なぜなら、この子がメイデンちゃんだとして、俺が過ごした世界線では、高3の時点で、もう既に目の前から消え去ってしまっていたからだ。


彼女の家はとても裕福で、前の世界だと、高校は私立のお嬢様学校に通っていた。

でも、今目の前にいる彼女は、たしかにうちの制服を着ている。

そんな彼女が、どうしてこんな普通の公立高校に通っているのか不思議だった。


「なんでって、凛樹さんと一緒に通いたかったから」


彼女はふふんと笑うと、ニヤリと笑って、


「嫌?」と尋ねる。


ずるい。

こんなふうに聞かれて、嫌って言えるはず無いじゃないか!


というか、嫌なはずないよね。


「そんなことないよ、ただ、どうしてこんなにかわいい女の子が俺と一緒に登校してくれるのかなって」


「えー、その反応はちょっと面倒くさいですよ、凛樹さん」


「そうだよね、ごめん、ちょっと卑屈だった」


あはは、たしなめられてしまった。


だって、憧れのアイドルと登校してるんだよ?


そりゃこうならないほうがおかしいって!


「いいんです、わたしが好きでしてることですから」


「え、す、好き!?」


童貞みたいな反応をしてしまった。え? 童貞じゃないのかって? 言わせるなよ……。


そんな早とちりをした僕の発言を聞いて、彼女の顔が沸騰したようにみるみる赤くなる。


「い、いや、今の好きっていうのはそういう好きとはまた違うっていうかなんていうか、気にしないでください!」


何この可愛い反応。

かわいい。


もうだめ、好きになっちゃう♡


いや、前から好きなんだけどね。


「そっか〜、俺のこと好きなんだ〜」


「からかわないでくださいってば」


げしげしと足を蹴ってくる。


「あれ、その靴……」

唐突に違和感を覚える。


「あ、そうですよね……」


彼女が履いていた靴は、彼女の美しい白い肌とは不釣り合いなほど、くたびれていた。


「汚いですよね……。汚しちゃってごめんなさい」


「いや、そんなことはいいんだよ。……そうだ! 今度新しい靴を買いに行こう」


「本当ですか! 凛樹さんに選んでいただけるなんて、嬉しいです!」


彼女の顔がぱっと明るくなる。


そうか、この世界線では、彼女の家は貧乏なんだ。

だから、俺と同じ公立高校に……。

少し謎が解けてきた。


でも、どうして俺と一緒に登校してくれるんだろう?


前の世界では中学の時同じ学校だったけど、別に一緒に通ったりしなかったし……。


まぁ、いっか!


今はこの状況を楽しむことが大切だ。

些細な疑問は時間が解決してくれるよね。


タイムスリップして初めての通学路は、15年前からほとんど使わなくなった道なのに、あっという間に過ぎていった。



「ちょっとあんた、誰?」

校門の前にたどり着くと、アクセサリーをたくさんつけた、気の強そうな女子高生が突っかかってきた。


「へ、お、俺?」


「はぁ? あんたのことは知ってるわよ」


あ、思い出した。


千明だ。


高校卒業以来疎遠になってしまったので、たった今、呼びかけられるまで、忘れていた。


「こ、こいつは……」


「わたしはパラディン・メイデン。凛樹さんとお付き合いさせていただいておりますわ」


な、なんだって〜!?


千明も目を丸くしている。


さっきはあれだけ恥ずかしがっていたのに、堂々となんてことを言うんだ。

いやはや、こわい女……。


「い……いつからよ」


「さっきですわ。わたしが『好き』と言ったら、凛樹さんは受け止めてくださいましたのよ」


得意げに笑うメイデンちゃん。

いつの間にか話が進んでいる……。


というか、千明はなんで声をかけてきたんだ?


「あっそ、じゃあ、お幸せに」


「お、おい、待てよ千明」


パシッ

メイデンに腕を掴まれた。

なにこれ、こんなに小さい手をしてるのに、めちゃくちゃ強い握力。


「いいですから、行きましょう」


「は、はい……」


変だよね。

だって、前の世界でのドSなメイデンちゃんの素養が垣間見えて、ちょっと興奮してたんだから。

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