みじめなアイドルオタクだった俺だけど突然タイムスリップしてJK時代の推しに告白されたのでプロデューサーになってハーレム無双します!

折出柏三

プロローグ

凛樹が家に帰り、テレビをつけると、ちょうどパラディン・メイデンが映っているシーンだった。


メイデンさん、可愛い♡♡


高校時代、インスタで評価されて、選ばれし者になったメイデンちゃん。


でも、まさか、とうとう映画の主役に抜擢されるなんて。


どういうことかと言うと、この映画は、メイデンの人生を簡単に振り返って見れるようになっているんだ。


というかあの映画は、メイデンの人生を生きているようなものだ。


美しい少女が何気なく撮った写真の数々に、万人が恋に落ちた。インスタで拡散される数々の写真。


そして、なんと言っても、あの高飛車な態度!


それが許されるのは、メイデンの圧倒的な美貌があるからだ。


こんな世の中で、輝かしい栄光として浮かび上がるメイデン。力強く逞しく、聡明で、美を通り越して、儚げな少女。



——俺はあの頃、いつも一緒に過ごしていた。



え、妄想だろって?


野暮なこと言わないでくれよ。


そんなの当たり前じゃないか。


俺だって、あんな美少女と、青春時代を過ごしたかったよ。


五年くらい前からかなぁ......。そういう想像をして暮らすようになったのは。


でも、僕にとってはこれがかけがえのない「現実」


これからも、メイデンちゃんと一緒に過ごしたという架空の思い出を背負って、俺は生きていくんだ……



『なぜ、ときめくの?』


そんなこと訊かれてもなぁ、理由なんかないんだけど……。


いや、ないと言ったら嘘になる。


俺にはメイデンそっくりの幼馴染がいた。でも、彼女は突然目の前からいなくなってしまって——。


いや、この話はよそう。


『メイデンのことを、あなたは知ってる』


そりゃもちろん、10年も推してるからね。


『違う、もっと前から』


へ?


というか、この声は一体……。


『どうしてわからないの?』


頭に強い衝撃がくる。グラグラする視界。


ダメだ、仕事のし過ぎだろう。もう寝よう……。


凛樹はスーツのまま、ソファで寝落ちてしまった。


『わからないなら、わからせてあげる』





「なんだこれ……」


目が覚めると、服がダボダボになっていた。


急いで鏡を見ると、そこには、少年になった凛樹の姿が映っていた。


ひょっとすると、タイムスリップ?


いや、まだ夢の中だという可能性が高い。でも、ほっぺたをつねっても痛い。



烏龍茶でも飲もうと冷蔵庫を開ける。


そこにあるはずの烏龍茶はなかった。中身は見覚えのないものばかりだ。でも、なんだか懐かしい。



「本当にタイムスリップしたのか……」



混乱する凛樹の元に、父親が起きてきた。若い父。



「親父だ……」



「おう、どうした、遅刻するぞ。てか、なんでお前スーツなんか着てるんだ?」


「ああ、俺もよくわからない……」



ただでさえわけがわからない状況なのに、一人暮らしを始めてから、何年も会っていなかった父を見て、たじろいでしまった。実家には忙しいと言い訳して、ずいぶん帰っていなかった。



家に帰ると、あの日のことを思い出してしまうから——。



とりあえず、現状を把握しないと


「親父、俺って何年生だっけ?」


凛樹は父に尋ねる。



「寝ぼけてるのか? 高3だろ。受験生なんだから、しっかりしてくれよ」



高3……。


マジか、高校三年生......。


そういえば、高3の頃にはもう……。



「今日もあの子来てるぞ、早く着替えて行け」



「あの子?」


誰だろう、俺には家に迎えに来てくれるような親しい友人、ましてや彼女なんていない。



父がよこした制服にそそくさと着替えると、凛樹は、座って少し考える。



戻ってきてしまった。


忘れたかったあの日々に。


妄想をしてまでやり過ごしたかった日々に。


でも、今回だってきっと変わらない。また同じようにすればいいんだ。



家を出ると、門の前で誰かが待っていた。



「おはよう、凛樹さん」



くすんだ空を輝かせるほどに、彼女の笑顔はまぶしかった。


彼女の笑顔は、凛樹の固まった思考を溶かす。



そこにいたのは、アイドルになる前のパラディン・メイデンにそっくりな少女だった。


もしかして、メイデンちゃん?


凛樹は有頂天になりそうな気持ちを必死で抑えた。



そうか、きっとこれは俺が妄想していた世界なんだ。



「行きましょう」


「……あぁ」



こうなったら、楽しまなくちゃ!



「あ、あの……」


彼女が手を伸ばしてくる。



「な、なんだよ」



バシン


恥ずかしくて、つい、手を弾いてしまった。


みるみる顔が赤くなる凛樹。



「!! 申し訳ありません……寝癖がついていたので」



「い、いや、こっちこそ、弾いちゃってごめん」



恐る恐る彼女の顔を覗いた。



え……。


彼女の笑顔は先程にも増して輝いていた。


もしかして、ドM?



メイデンちゃんはドSキャラで有名だった。


ということは、この子はメイデンちゃんとは別人……?



「ど、どうかしましたか? 凛樹さん」



「い、いや……」


なんだか違和感はあるけど、こんなにかわいい女の子と登校できるなんて、願ったり叶ったりだ!



「…………ようやく会えたね♡」



……何か聞こえたけど、やっぱりこの子、誰なんだ〜〜〜?

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