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俺がこれからの作戦を話すと、リュクサンドールは案の定歓喜の声を上げた。
「え、マーハティカティさんにツァド使っちゃっていいんですか? やったー!」
ってな感じに。
まあ、当然、
「ちょっと! そんな物騒な術を使うなんて何を考えてるの!」
「そーだよー。そんな術ここで使ったら、超国際問題なんだからねー」
変態女とロリババア女帝が抗議してきたが。ついでに亀妖精も「ツァドじゃとう……」と何やら震えているようだ。ディヴァインクラスのモンスター共通のトラウマの術なんか、これ。(俺も軽くトラウマだがな!)
「落ち着け。ちゃんとベルガドに被害が出ないように使うんだよ」
俺は頭上にぽっかり空いた穴を指さし言った。
「一か月前にこいつがツァド使ったら、周囲5km圏内の草木が全部枯れたらしいじゃねえか。つまり、ベルガドから5km離れたところで使えば問題ないだろ」
「ああ、そういうことね」
「トモキ君、かしこーい」
変態女と女帝様は一瞬で察したようだった。
そう、俺の作戦は実に単純だった。このまま上の穴から暴マーを上空5kmのところまでブン投げる。そんでもって、そこでリュクサンドールにツァドをぶっ放してもらい、暴マーを処分する。それだけだ。毒を以て毒を制すってやつだ。
ツァドの術で暴マーが処分できるかは、はっきり言ってギャンブルだが、あれだけ暴マー自身がおびえてたんだから、多分大丈夫だろう。失敗しても、とりあえず何も失うものはなさそうだしな?
「でも、トモキ君とはいえ、そんなに高くまでマーハティカティさんを投げ飛ばせるんですか?」
「そこはまかせろよ」
リュクサンドールの問いに力強く答えると、俺はすぐに近くの暴マーを持ち上げその場で軽くお手玉してやった。ひょいひょいっとな。推定十トンはありそうな超巨体だが、俺の鬼フィジカルにかかればこんなもんでい。まあ、上空5kmのところまでブン投げるのは俺でもさすがに少しきつそうだが。少しな。
「さすがですねえ、トモキ君。これなら僕も思う存分高いところでツァドを使えそうです!」
リュクサンドールはウキウキだ。
「あ、でも、ファニファ思うんだけど」
と、女帝様が口を開いた。
「仮にサンディー先生がツァドの術を使って、一撃でマーくんを倒したとするでしょ? すると、今度はサンディー先生がバッドエンド呪いにかかっちゃうんじゃないの?」
「なんですと! 僕にバッドエンド呪いがかかるとは!」
リュクサンドールは瞬間、かっと目を見開いた。
「それはなんてすばらしいことでしょう! バッドエンド呪いのような極めてまれな、伝説級のレアな呪いにかかることができるなんて! 呪術師冥利につきるとはまさにこのことです!」
「お、お前はそれでいいのか……」
やっぱ頭おかしすぎるだろ、この男。
「あ、でも、バッドエンド呪いにかかったとわかったとたん、僕はとても幸せな気持ちになるわけで、その瞬間に僕は呪いの力で非業の死を遂げる可能性もあるような――」
「それはそれで世界が平和になっていいことだな」
「いや! バッドエンド呪いにかかっただけでは、やはり僕は真に幸せになったとは言えない! 僕の願いは世界が絶望と悲しみに包まれ呪術向きに変わったうえで、呪術があらゆる人々に受け入れられるようになること! 呪術が大学受験の必須科目になるような! それが果たされるその日まで、僕は決してバッドエンド呪いでは死なない! いや、死ねない!」
「そんな日が来るわけないだろ」
つまり、こいつバッドエンド呪いがかかってもノーダメージか。無敵かよ。
「まあ、とりあえず、お前が暴マーを倒すのにこの上なく適任であることはよくわかった。遠慮なくこの有害廃棄物にツァドをぶっ放してくれ。こっから上空5kmのところでな」
「任せてください!」
というわけで、俺は直後、暴マーを夜空の向こうにブン投げ、リュクサンドールもすぐにそれを追いかけるように飛んで行った。「黎明に……(以下略)」と、不吉極まりないツァドの呪文を詠唱しながら。
果たしてこの作戦はうまくいくのか。俺たちはただ下から様子をうかがうことしかできなかったが、やがて夜空に変化が現れた。ここから見えている範囲のすべての星の光が急に消えたのだ。どう見ても、あの最低愛悪クソ術ツァドによるものだ。あの五匹の蛇は光すらも吸収してしまうのだ。
「……まるで暗黒花火だな」
思わず、そんな言葉が漏れた。
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