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やがてすぐにリュクサンドールは俺たちのところに戻ってきた。というか、落下してきた。ものすごい勢いで。
「うわっ!」
俺たちはとっさにそれをよけたが、やつはベルガドの甲羅の物理障壁で弾かれ、何度もそこらをバウンドしながらやがて動きを止めた。落下の衝撃で一瞬肉塊になったようだが、すぐに元の人の形に戻ったようだった。というか、自前の物理障壁がまるで仕事してないようだが、ツァドぶっぱなして消耗しつくしたのか?
「おい、ちゃんと上空で暴マーは始末したんだろうな?」
駆け寄って尋ねてみたが、まだ衝撃で目を回しているようで「うーん……」と、あいまいな答えしか返ってこなかった。はっきりしろ。
「勇者様、それはもう大丈夫だと思うわよ」
と、変態女がそこで上を見上げながら言った。何やら小さな魔法陣を空中に展開させており、それ越しに上空をうかがっているようだ。
「暴虐の黄金竜マーハティカティの気配はもう一切感じられないわ。サンディーのツァドの術に食われて消えてしまったようね」
「マジか!」
あの有害廃棄物、ついに処分できちゃったか!
「そうじゃのう。さっきまでの邪悪な気配はもうどこにもないようじゃのう」
「そーだねー。マーくん、すっかり消えちゃったねー」
亀妖精と半透明女帝様も異口同音に言う。おおお、やったぜ!
なお、ヒューヴは俺たちの近くで寝てた。シャラはその近くで青い顔をしてうずくまっていた。「犬……犬はもういや……」と震えながら。
やがて、呪術オタも、
「そ、そうですか! 僕のツァドの術がマーハティカティさんに打ち勝ったんですね! ディヴァインクラスですら屠れるとは、これはすごい快挙! 呪術すごい! 呪術さいきょ……ぐふぅ」
自らの勝利を噛みしめだしたようだ。ひたすら呪術ageしながら。まあ確かに、あれを一撃で倒せる術ってのはチートすぎる気がしないでもないな。俺以外に一撃で倒せるやついなかった化け物モンスターだからな、一応。
「しかし、やはり気になるのはバッドエンド呪いの行方ですね。今回は僕がマーハティカティさんを一撃で倒したわけですし、今度は僕が呪われているべきですよね。そうですよね、サキさん?」
と、何やら呪術オタは物欲しげな顔で変態女に尋ねた。
「そうね……普通に考えるとそうなるんでしょうけど……」
変態女は今度は違う色の魔法陣を呪術オタのほうに向けて展開し、それ越しに難しい顔をしながら言った。これは前に俺にも使った呪い鑑定アプリってやつかな?
「あなたにとっては非常に残念なお知らせになるのでしょうけど、どうやらあなたはバッドエンド呪いにはかかっていないようよ」
「な、なんですと!」
瞬間、かっと目を見開き、直角に起き上がる呪術オタだった。再起動はえーよ。
「なんでそんなバカなことがあるんですか! 僕はちゃんとマーハティカティさんを一撃で倒したはずですよ! 呪いの条件ばっちり満たしているじゃないですかあ!」
「おそらく、召喚魔法を使ったせいね。あの竜を倒したのが術者本体ではなく、召喚された魔物だから、呪いはそっちにかかったんじゃないかしら」
「ちょ、待ってください! 召喚された魔物に毒やら呪いやらかかっても、その魔物は時間とともに消えてしまうわけで、まったく意味のないものになるじゃないですか! 次に同じモンスターを召喚しても、毒やら呪いはリセットされてるじゃないですかあ!」
「そうね。召喚魔法で呼び出された魔物はしょせん、術者の魔力で作られたものだし。ステータス異常も毎回リセットされるわね」
「そんなあ……うわあああああんっ!」
涙目で手足をじたばたさせながら、そのへんを転げまわるリュクサンドールだった。よほどショックなのか。呪われてないことが……。普通逆だろ。
「そ、そうだ! この作戦を考えたのはトモキ君ですし、バッドエンド呪いはもしかしたらまたトモキ君にかかっているかもしれませんよ!」
「え」
また唐突に何を言うんだ、こいつは。アクロバット思考すぎるだろ。
「……そうね。念のため、勇者様の呪いが消えてるかどうかも調べてみましょ」
と、変態女は今度は呪い鑑定アプリの魔法陣を俺のほうに向けた。
そして、
「大丈夫。勇者様の呪いはもう完全に消えてるわ」
と、言うではないか――って、おおおおっ!
「そうか! ついに俺ってばあのクソ呪いから解放されたか!」
ここまでの道のりは長かったが、ミッションコンプリート! ようやく前世から続く忌まわしき呪いから解放され、きれいな体になりましたよ、俺!
「わあい! わあい!」
思わず小躍りしてはしゃいじゃう俺だった。相変わらず近くでは涙目で転げまわっている男がいるのだが。邪魔くさいな、もー。
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