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さて、頼りにならない仲間のことは忘れて改めて目の前の男と真剣勝負にのぞんだ俺だったが、まあ当然、そう簡単に倒せる相手じゃなかった。なんせ、昔の俺なんだから。最強の勇者アルドレイ様のボディなんだから。
しかもラファディのやつ、俺の死体を操りながら、
「ふふ、やはりこの体は素晴らしいですね! 現役の最強の勇者様とこうも対等に戦えるとは!」
とかなんとか、ふざけたこと言いやがるし! 俺の体なんだから当たり前だろうがよ!
「はっ、死体泥棒が偉そうな口をきいてんじゃねえよ!」
と、俺はとっさに叫んだものの、内心ではその自分の言葉に違和感を覚えていた。
そう、こいつは間違いなくただの「泥棒」なんかじゃない。俺の死体を盗んで利用していることには違いないが……。
「しかし、残念ですね。やっと私の前に現れた転生後の勇者様が、転生前に比べてこんなにも劣化されているとは」
と、そこでラファディはふと攻撃の手を止め、ため息まじりにつぶやいた。
「れ、劣化だとう……」
聞き捨てならねえセリフだなあ、オイ!
「てめえ、そりゃいったいどういう意味だよ!」
「言葉通りの意味ですよ。私の見立てによると、勇者アルドレイ様は、転生されてかつての強さをいくらか失っておいでのようです。きっと、転生されてから今日まで、戦いとは無縁の人生だったからではないでしょうか」
「う」
言われてみれば確かに……。戦いばっかりしていた勇者アルドレイ君とちがって、二宮智樹君はゲームアニメネットの堕落しきった人生だったからなあ。
「い、いやでも! 俺確か、レベルカンストした前世のパラメータをそのまま引き継いでるはずだしぃ!」
『パラメータの上限までそのままとは限りませんネー?』
「う!」
と、今度はゴミ魔剣の言葉の刺される俺だった。言われてみればそうよね。俺って、一度は勇者から学生にジョブチェンジしたわけだし、ステ上限が勇者時代そのままとは限らんよね? 実際、酒に対する耐性とか、魔力の数字とか、アルドレイ時代と変わってたわけだし……。
「う、うっせーな! そんな俺を倒せないお前はいったいなんなんだよ! 十五年前の俺の、カンペキボディ使ってるんじゃねえのかよ!」
「そりゃあもちろん、この体はいまだ不完全だからですよ」
「いまだ……不完全?」
「はい。この体には、ふさわしい魂が入っていない。そう、かつて十五年前、私が求めた魂が!」
と、ラファディは手に持った槍で俺を指しながら、高らかに声を張り上げた。
「なるほどな。『十五年前に私が求めた魂』か……」
それは決定的なセリフだった。どうやらもう疑う余地はどこにもなさそうだ。
そう、つまり……、
「お前が、十五年前に姫に俺を殺させた黒幕ってわけか」
「まあ、そうですね」
ラファディは、かつて勇者アルドレイと呼ばれていた男の顔を不気味にゆがませ、にやりと笑った。
「ふうん、そっか」
それは衝撃の真実のはずだったが、俺は不思議と落ち着いて聞いていられた。まあ、俺の死体が目の前に現れた時からうすうす気づいていたことだったしな。
それに、こんな悪の権化みたいなやつが十五年前の俺の悲劇の黒幕だったと知って、正直ほっとしていた。だって、俺の大好きだった姫は、こいつに操られていただけの被害者だったってわかったんだからな。そう、俺の愛が裏切られたわけじゃなかったんだよ!
「一応聞くけど、十五年前に姫に俺を殺させた動機って何だったの?」
「最強の勇者様の魂を手に入れるためですよ。ただ、残念なことに、勇者様の魂は死後すぐに遠い世界へ転生してしまったようで、手に入れられたのはこの体のみになったわけですが」
「なるほど。本命は俺の魂そのものだったってわけか」
地球に転生していなかったらどうなってたんだ、俺。
「あのときは本当に残念な思いをしました。か弱い姫に最強の勇者様を倒させるために、特別な毒をたっぷり塗り込んだナイフを用意したりもしたのですよ。毒の名前はズバリ『勇者殺し』!」
「ピンポイントすぎだろ」
何そのネーミング。焼酎か何かなの。まあ、あのナイフの一突きでなぜこの俺が殺されたのかはわかったが。
「……真相を知っても意外と冷静なのですね、勇者様は」
と、そこでふと、ラファディがつぶやいた。
「私は十五年前あなたを殺した犯人だというのに。あなたの立場なら、私に対してもっと怒り狂ってもよいのでは?」
「まあ、そうなんだろうが、結局は呪いのせいだろうしなあ」
「呪い?」
「ああ、当時の俺は超タチの悪い呪いにかかっててな。お前が何かやらなくても、結局似たような状況で死んでたはずだし――」
「はは、何を言うのですか、勇者様。その言い方だと、この私の行動が、まるで勇者様のかけられた呪いによって決定づけられたかのようではないですか」
「まるで、じゃなくて、その通りだよ。俺にかけられた呪いが発動した瞬間に、お前が俺を殺すように運命が決定されたんだ。そういうめんどくさいタイプの呪いらしいんだよな、これが」
「な、なにをバカなことを!」
ラファディは瞬間、強い怒りをあらわにした。
「それではまるで、私が……そう、この私が! あなた様にかけられた呪いとやらよりも格下の存在のように聞こえるではないですか! 私は断じて、呪いとやらに操られてあなたを殺したわけではない! すべて、私だけの意思でやったことなのですよ!」
「いや、だからそういう個人の意思決定にも干渉できるタイプの呪い――」
「そんなふざけた呪いがあるはずがない!」
「あるよ」
「ない! 絶対にありえない!」
直後、ラファディは槍を携え、ものすごい勢いで突進してきた。
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