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「うわっ!」


 とっさに闘牛士のようにその突撃攻撃をかわしたが、ラファディはなおも激しく攻撃してきた。すごい勢いだ。まあ、怒りに任せた単調な攻撃だったから、かわすのは簡単だったが。


 しかし、こいつってば、余裕ぶっているように見えて、意外と沸点が低い奴だったんだな。自分の行動がバッドエンド呪いの影響だったと知らされて、こうも怒り狂うなんて。


 よーし、ここはもっと煽ってやるか。


「別にいいじゃねえか。お前はあくまで呪いの影響で十五年前の俺を殺しただけだろ? 呪いの影響で殺された俺よりかはだいぶマシだろ? はは」

「まだそんなことを言うか! 黙れっ!」


 と、案の定、ますます頭に血が上ったようなラファディだった。なんだか相手が一気に小者臭く感じてきた。こいつは超大物の悪の権化みたいなやつじゃなかったのかよ。


「いいから、素直に真実を受け入れろよ。そういう呪いはあるんだよ。疑うのなら、そこの二人に聞いてみ?」


 俺は近くの呪術オタ二人を指さした。


 すると、やつらもこっちの話を聞いていたらしく、


「そうですね、トモキ君の言う通り、バッドエンド呪いは確かに実在しますよ。ラファディさん」

「ワシは文献で読んだことがあるだけじゃが、サンちゃんティーチャーがそう言うんなら、そうなんじゃろうなー」


 ってな答えが返ってきた。まあ、ジジイの証言は頼りないが。


「ほーら、ほら! 呪いの専門家たちも口をそろえてああ言ってらっしゃる! 俺の言葉を信じようよ、ラファディさんよ」

「ぐ……」


 と、さすがに返す言葉を失い、歯ぎしりするラファディだった。ふふ、いい気味だぜ。


「ま、まあいいでしょう! たとえ私がどのような呪いの影響を受けようとも、それはもう十五年も前の話です。もう終わったことなのです。今更、語ることは何もない!」


 と、ラファディは自らに言い聞かせるように言うと、冷静さを取り戻そうとしたようだった……が、


「え? トモキ君のバッドエンド呪いなら、今も絶賛継続中ですよ?」


 呪術オタがいらんことを言った。


「き、貴様、今もその呪いにかかっているだと! 私の運命すら操れる呪いに!」

「ええ、まあ」

「まさか……まさか、こうして私が貴様と相まみえたのも、その呪いによるものなのか?」

「ええ、まあ」


 呪われてなきゃ、こんなところ来なかったしなあ。


「ふ……ふざけるなっ!」


 ラファディはいよいよ完全にブチ切れたようだった。


「そ、それではまるで、十五年前から今日にいたるまで、私は……この私は! 完全に貴様にかけられた呪いに支配されていたようなものではないか!」

「いや、支配ってほどでもないだろ」


 呪われている本人でもないくせに、なんだその言い方。プライド高すぎかよ。


「よくわからんが、人生ってそんなもんだろ? 自分の意志だけで決めたはずのことが、実は知らずに何かの影響を受けていたとか、超あるあるだろ? あと、ものすごく小さいイベントの結果が後のシナリオに大きく影響するとかも超あるあるというか、つまりはバタフライエファクト的な――」

「薄っぺらい言葉で人生を語るな、若造が!」


 ラファディはそう叫ぶと、再び猛烈な勢いで俺に突撃してきた。もはや、俺の言葉など何一つ聞く耳を持たないようだ。まあ、もとからこんなやつと話すことなんて何もないけどな。相変わらずの怒りに身を任せた単調な攻撃を、俺は余裕でかわしつづけるだけだった。


 そして、そんななか、俺はあることに気づいた。相手は俺の死体の能力をそのまま使っているだけに、パワーも速さも槍さばきもずば抜けているが、いくらなんでも動きに「遊び」がなさすぎるということに。そう、動きに無駄がなさすぎる、きれいすぎるんだ。


 もちろん、それは卓越した戦士だからこそできる動きではあったが、なんせ相手はこの俺だ。そんなにも動作に無駄がなさすぎると、逆に動きを先読みしてかわしやすくなるってもんだ。今みたいにナー。ひょいひょいっと。


 また、その無駄のなさすぎる動きは、言い換えると「基本に忠実」すぎるということだった。そう、応用テクニックは何も乗っかってない。臨機応変さなどどこにもない、非常に単調な動きだ。


 おそらくこれは、俺の体が覚えている戦闘の基本の型をそのまま再現しているせいだろう。なんせ、中身は錬金術師の大先生だ。おそらく俺の体を基本能力以上に使いこなせていないってことだ。


「……なるほどな。魂のほうが本命だったってのはそういうことか」


 俺はにやりと笑った。装備で負けているとか、前世から能力が劣化してるとか気にしてる場合じゃなかったな。この戦い、数々の修羅場を潜り抜けてきた経験のある俺のほうが圧倒的に有利じゃねえか、ガハハ!

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