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「その話は本当ですか、トモキ君! 呪術をこの世から消し去るなんてとんでもない話じゃないですかっ!」


 リュクサンドールはそう叫ぶや否や、すぐに俺たちの近くにすっ飛んできた。文字通り、闇の翼を使って超マッハの飛行で。


「ああ、もちろん本当だぜ! こいつに呪術を消し去られたくなかったら、お前はとっとと俺に加勢しろ!」


 と、俺は二つ返事で答えたわけだが、


「いえ、私はそのようなつもりはございませんよ」


 目の前の黒鎧男はあっさり否定しやがった。くそ、めんどくせーな。いちいち反応するんじゃねえよ。


「え、それはつまりどういう……?」


 すっ飛んできた間抜けは案の定困惑しているようだ。


「おい、敵の言葉に惑わされてんじゃねえよ! 俺はお前の仲間なんだから、今は俺の言葉だけ信じろ!」

「え? トモキ君って僕の仲間でしたっけ?」

「えっ」

「僕はただ、トモキ君が僕の呪術が必要だというからここまで来ただけですしねえ」

「そういえば……」


 こいつはその場のノリで適当に連れてきただけで、それ以上の何者でもなかった気がするな? 


「こ、細かいことはいいだろ! 俺の言う通り、お前は黙って俺の加勢をしていればいいんだよ! お前の呪術が必要だってことはちゃんと言ったんだからな!」

「はあ、しかし、僕としては気になりますね。トモキ君が今戦っているその人は、本当に僕の愛する呪術の敵なんでしょうか?」

「そりゃあもちろん――」

「ラファディ様は呪術の味方じゃよ! サンちゃんティーチャー!」


 と、そこでにわかに近くから声がした。見ると、ロス・メロウとかいう呪術師のジジイも俺たちのすぐそばまでやってきていた。今のセリフはこいつか。


「サンちゃんティーチャー、こんな若造の適当な言葉に騙されちゃあイカン! こやつはラファディ様に自力で勝てぬゆえ、口からでまかせを言ってサンちゃんティーチャーを味方に引き込もうとしているだけじゃ!」


 どきっぱり。ジジイのやつ、思いっきり真実を暴露しやがった。何が、サンちゃんティーチャーだ、ちくしょうめ。


「ああ、なるほど。つまりトモキ君の今の言葉は嘘――」

「う、嘘じゃない! リュクサンドール先生、俺が嘘をつくような人間じゃないことは、あなたが一番よくご存じでしょう!」

「あ、そういえば、一か月前に僕とやりあった時も、呪術の神様が近くにいるとか、僕に嘘をつきましたね、トモキ君は?」

「ぎくっ!」

「つまり、トモキ君の言葉は信用できない――」

「そ、そそそんなことはないでござるよ!」


 俺は必死に声を張り上げ訴えた。目の前の黒鎧男とやりあっている以上に、緊迫した駆け引きだった。


「確かに一か月前の俺はどうかしていた。ちょっとばかりヤンチャしてサツに捕まって臭い飯を食わされたりもした。それは先生もよく知っているだろう。だが、今の俺はもうその時の俺とは違う! あの新月の夜、先生の素晴らしい呪術を目の当たりにして、俺は心をきれいに入れ替えたんだ!」

「はあ、なるほど。僕の呪術のおかげで、トモキ君の嘘つきが治ったんですね」

「そうだよ! 呪術ってすばらしいんだ! 俺みたいなやつも真人間に更生させちまう無限の可能性があるんだ!」

「ああ、そうですね。まさにその通りです。そんなトモキ君の言葉を疑う理由はもはやなにもないですね!」

「おうよ!」


 よし! なんか知らんが丸め込むことに成功したぞ! さすがハイパーチョロ男。


 と、喜んだのもつかの間……、


「ハッ、なーにが呪術で心を入れ替えたじゃと? 呪術で真人間に更生したじゃと? 寝言もいいところじゃな!」


 ロス・メロウのじじいがまた割り込んできた。また邪魔くさいことに。


「呪術がそんな人のためになるもんじゃったら、昔から禁術にされておるわけないじゃろう! バカも休み休み言うんじゃな!」

「う」


 さすがプロの呪術師。説得力のありすぎる反論だ。


「ああ、それもそうですね、ロス・メロウ先生。つまり今のトモキ君の言葉は――」

「一から十まで、頭からしっぽの先まで、真っ赤な嘘だということじゃな」

「なるほど。それなら合点がいきますね。さすがロス・メロウ先生です」

「はっはっは」

「はっはー」


 と、何やら笑いあう呪術師二人だった。くそう、くそう! 結局味方に引き込むのは失敗じゃねえか!


 と、俺が内心歯ぎしりしていると、


「それにのう、せっかくの男同士の一対一の戦いなのじゃ。ワシらが手を出すというのもヤボというものじゃよ」


 ジジイのやつ、さらになんか、もっともらしいこと言い始めてるし! ヤボとかイキとかどうでもいいんだよ、俺は。勝てばいいんだよ。


 さらにさらに、黒鎧男のラファディも、


「ふふ、さすがは禁忌の暗黒術師ロス・メロウ。私たちの戦いに水を差すのは好まないようですね」


 と、タイマン上等発言かますし。


「くそ、何が『私たちの戦い』だよ! お前、ほぼ俺じゃねえかよっ!」


 半ばヤケクソ気味に槍をぶん回しながら怒鳴った。俺たちの戦いはこれからだっ!

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