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「はっは! たとえ剣からリーチの長い槍に持ち替えたところで、この俺は倒せないぜ!」


 相手の槍の猛ラッシュ攻撃を軽く?受け流しながら、とりあえず俺は叫んだ。『アンタが言いますかネ、ソレ?』と、ゴミ魔剣のいらん声が聞こえてきたが。


 しかし、そう強がったところで、相手はやはり俺の死体を使っているのだ。その槍さばきはハンパねえ。うーん、これどうやって懐に潜り込めばいいんだ? スキがなさすぎなんだが!


 だが、そんな感じでしばらくお互い槍を振り回しているうちに、俺のほうの槍の先端が黒鎧男の肩にヒットした! おお、さすが俺、やるじゃん!


 と、一瞬喜んだのも束の間……その肩への刺突攻撃は、やつが瞬時に身をよじらせることで、鎧の上を滑って流れて行ってしまった。これじゃ、ほぼノーダメだ。


「ぐぬぬ……」


 今の攻撃、鎧さえなければ確実にダメージを与えられていたのに!


 瞬時に体勢を立て直しつつ、俺は歯ぎしりせずにはいられなかった。考えてみれば、俺はほぼ普段着の軽装なのに、向こうはガチガチに鎧で武装していて、装備面では圧倒的に俺のほうが不利じゃねえか、この戦い。なぜ俺、こんなユルイ装備でここまで来ちゃったんだ。討伐ミッションだって最初からわかってたでしょ。仮にこの格好で登山して死んだら、ネットで「山を舐めてる」って叩かれるだけのやつでしょ。討伐ミッションも同じでしょ。バカなの、俺。


 いやでも、俺が圧倒的に不利と決まったわけじゃない。そう、俺には……頼りになる仲間がいるじゃないか!


 直後、俺は周りに聞こえるように大きな声で叫んだ。


「おい、てめえら! ぼーっと突っ立ってないで、とっとと俺に加勢しろや!」


 そう、別に一対一のタイマンバトルにこだわる必要なんかない。ボス戦なんだからレイドバトルでいいじゃない。いいからみんな、俺に力を貸してくれっ!


 だが、いくら待っても誰も加勢に来てくれなかった。いったいどういうことなんだい? ちらっと周りを見てみると、すぐ近くに、ほぼ全裸のエメラダの乳を揉みしだいているヒューヴの姿があった。エメラダは倒れており、意識がないようだが……。


「ちょ、お前、何やってんだよ!」

「何って、エメラダちゃんの近くでブラストボウぶっぱなしたら、服が全部脱げたのはよかったんだけど、エメラダちゃん気絶しちゃったからさ、介抱してるに決まってるじゃんよ」


 と、言いながら、ひたすらエメラダの乳を揉み続けているヒューヴだった。何が介抱だよ。お前ただ、エロいことしてるだけじゃねえか、死ね!


「ヒューヴ、そいつは俺たちの敵だ! 倒したんならもう構うな! 今は俺に加勢しろ!」

「え、なんで?」

「えっ」

「オレ、エメラダちゃんとはもっとわかりあえる気がするんだよなー。敵とか味方とかそういうんじゃなくて」

「そういうんじゃなくない! まさにそういう状況だコレ!」

「それにアルは強いから、一人でもなんとかなるだろ?」

「う」

「がんばれー。オレたち、応援してるからさ」

「何が『オレたち』だよ!」


 倒れてる女の乳を揉みながら言うな、死ねよ、もう!


「も、もういい! お前には何も期待しない!」


 こんなバカに頼ろうとした俺がバカだった。ヒューヴのことはもう忘れて、もう一人の手が空いてそうな仲間、変態女の姿を探した。さっきチラ見した限りでは、変態男相手にまったく苦戦してなさそうだったからな。


 すると、すぐにその姿を見つけることができた。やはり先ほど見た通り、変態男を完全に圧倒しているようだ。変態男は全身(全裸)に鎖を撒きつけられ、苦悶の表情で倒れこんでいて、それを全身(全裸)に蛇を巻き付けた女が見下ろしている。なぜお互いの身に着けているものが入れ替わっているのかは知らんが、完全に勝負は決したような雰囲気だ。


「おい、サキ! 手が空いたんなら、お前もこっちに加勢しろ!」


 と、俺は再びレイドバトルのお誘いをしてみた……が、


「勇者様、今一番いいところなの! 邪魔しないで!」


 振り返らずにこう言われてしまった。ぴしゃりと。


「ちょ、何が『一番いいところ』だよ! もうお前の相手は明らかに戦えなくなってるじゃねえか! だったら、俺に加勢しろ――」

「まだよ!」

「え」

「まだ私のお仕置きは終わってないわ!」


 変態女はそう言うと、苦悶にゆがむ変態男の顔を素足で踏みつけた。ぐりぐりと。


 そして、


「ふふ、さっきはずいぶんと威勢のいいことを言っていたけれど、もはや何も口答えする力も残ってない感じかしらね?」


 と、足元の変態男をあざけった。何のプレイだよ。


「いいこと? 男にとって大事なのは大きさじゃないの。固さなのよ」


 と言いながらさらに変態男を踏みつける変態女だった。完全にお楽しみ中だ。こっちに加勢する気はなさそうだ。くそう、こいつもダメか!


 く……ならば最後の手段! 非常に気は進まないが、やるしかない!


「おい、リュクサンドール! とっとと俺に加勢しろ!」


 と、今度は近くの呪術師二人のほうに向かって叫ぶ俺だった。二人はやはり、楽しそうにオタトークしているだけだったが、


「えっ、もしかしてトモキ君、僕の呪術が必要なんですか?」


 リュクサンドールのほうは俺の言葉にすぐ反応したようだった。


「ああ、そうだよ! お前の呪術の力で、一緒に目の前の敵を倒そう!」


 ぐうう。よりにもよってこんなやつに頼るなんて。マジつれえ。


 だが、そうやって断腸の思いで助けを求めてみても、


「いやあ、悪いですね。今はロス・メロウ先生と非常に大事な話をしていて、トモキ君に呪術を使ってあげる余裕はないんですよー」


 と、なんかこいつもふざけたこと言いやがる! しかも俺に呪術を使ってあげるって何さ! そういうクソ術は、敵に使えよ!


 だが、そういうツッコミをするスキもないくらいに、リュクサンドールはすぐにジジイとの楽しいオタトークに戻ってしまった。くそうくそう、こいつもダメか! あとはシャラだが……こいつはダメだ。相変わらず炎の魔術師相手に苦戦してやがるみたいだ。とても助けを求められる状況じゃねえ。


 く……かくなるうえは……。かくなるうえは!


「おい、リュクサンドール、今こいつを倒さなくて本当にいいのか! こいつは俺を倒した後は、錬金術で世界を制覇して、呪術をこの世から消し去るつもりなんだぞ!」

「えええっ!」


 と、とたんに俺の言葉にぎょっとする男だった。よーし、これでこいつは俺の味方になった! 相変わらずちょろい男だぜ。こんなとっさの出まかせに騙されるとはな、ハッハ!


 ただ、もう一人の呪術師のジジイも俺の言葉に反応したっぽいのが気になるが……?

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