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「てめえ! 何勝手に人の死体使ってるんだ! ふざけんな!」


 俺は瞬間、ガチギレせずにはいられなかった。死者への冒涜、というか、俺への冒涜にもほどがある。


 だが、


「はは、何をおっしゃいます。まぎれもなく最強の勇者たるあなたのなきがらを、ただ朽ち果てさせるのではなくこうして完全な状態で保存しているのですよ。むしろ私に感謝してほしいものですね」


 と、ふざけたことを言う俺の死体の中の人、ラファディだった。こいつこそ死ねばいいのに。


 と、そのとき、


「あー! アルじゃん! 昔の顔に戻ったのかー!」


 そう言いながら、バカの鳥人間がこっちに近づいてきた。


 そして、


「あ、あれ? よく考えたらこっちのアルも本物か? つまり、今はアルが二人? えーっと……?」


 俺と黒鎧男(昔の俺の死体)を交互に見て混乱し始めた。まあ、戸惑うのも無理はないか。


「ヒューヴ、こいつは昔の俺の死体を勝手に再利用しやがってるんだよ」

「へえ、なんだあっちは死体なのか。はっはー」

「はっはー、じゃねえっ!」


 俺はバカのポンチョの胸倉をつかみ、怒鳴った。


「なんであんなやつに俺の死体がとられてるんだよ! てめえ、俺が死んだと聞かされた時、いったい何してたんだよ!」

「え? アルが死んだって聞いたときは、アルがもらうはずだった財宝をみんなで山分けしてたけど。あと鎧とかは臭いからもらわなかった――」

「ふ……フッザケンナヨッ!」


 答えになってない上に、イベント進行がまたドライすぎてつらい! お前ら、俺が死んだことへの悲しみはなかったのかよ!


「ヒューヴ、お前そもそも、俺の死体をちゃんと確認したのか?」

「いやー、アルのやつ、バルコニーから飛び降りてぐちゃぐちゃになってるって聞いたから、見なかったなあ。オレ、そういうの苦手だし?」

「……見てないんだな」


 おそらくティリセやエリーも同じか。そして、その確認を怠ったがゆえに、ラファディとかいうクソ野郎に俺の死体は盗まれてしまったんだろう。


 いや、この男の場合、そういう火事場泥棒的なものではなく、むしろ最初から……?


 と、そのとき、


「あなたの相手はこの私です! よそ見をされては困ります!」


 という声とともに、こっちに無数の矢が飛んできた。わっ! とっさにヒューヴとともにそれをかわした。


 見ると、その矢はエメラダというダークエルフの女が放ったものだった。すぐ近くにその姿があった。


 ただ、その服装はさっきまでとはうってかわって、かなりズタボロで露出度高めだった。おそらくヒューヴとやりあってこうなったんだろう。ヒューヴは見た感じ服も含めて無傷だったので、このペアは実力差ありすぎだったのか。


 しかも、今の不意打ちに対してもヒューヴはきっちり反撃しやがったので、さらにその格好はきわどいものになった。ダークエルフとはいえ、なかなかいい大きさのおっぱいをしているようだ。やっぱ、ディードよりピロテースだよねー。


「エメラダちゃん、せっかくこうして出会えたオレたちなんだ。バトルなんてくだらないことはやめて、一緒にイイコトしようよー」

「だ、黙りなさい! 私たちは敵同士なのですよ!」


 と、エメラダはさらにヒューヴに向かって矢を放つが、それはやはり一向に当たらない上にボウガンの反撃を食らうだけだった。その直撃は避けているものの、エメラダの服はますますボロボロになっていく。


 そして、そのまま二人はあっちに行ってしまった。


 また、他の連中のほうに目をやってみると、呪術師二人組は相変わらずオタトークしているだけだった。シャラは炎の魔術師に苦戦しているようだった。変態魔術師二人組は、なぜかお互い身に着けているものが入れ替わっていた。そう、変態女のほうは鎖のかわりに蛇をまとわりつかせており、変態筋肉男のほうは全身に鎖をまきつかせていた。さらに、変態女のほうは余裕の表情で立っていたが、変態筋肉男のほうは鎖に締め付けられ苦悶の表情を浮かべていた。こっちは変態女の圧勝なのか。というか、苦戦してるのシャラだけか。


 いや、よく考えたら今のこの状況、俺が一番やばいか……。


「ふふ、お仲間とのお話は終わったようですし、そろそろ行きますよ!」


 と、ラファディは空気を読んだように、再び俺に斬りかかってきた!


「くっ!」


 相変わらず超素早い攻撃だ。さすが俺の死体。さす俺。まあ、相手も俺だし、なんとかよけることはできたが。


 しかし、こんな相手にどうやって戦えばいいのか、さっぱりわからなかった。実力が拮抗しているのは明白だ。つまり、下手に隙を見せればやられる。こういう時は、まずは相手の太刀筋を読んでだな……って、太刀筋? んん?


「って、そうか!」


 瞬間、俺ははっとひらめいた。そうよ、そうわよ。この手があったわよ! 直後、俺は叫んだ。


「ネム、槍に変われっ!」


 そう、剣を持つ相手に馬鹿正直に剣でやりあう必要性などみじんもないのだ! 相手が剣なら、こっちは槍で戦う! そうすれば槍のリーチの分、とても有利に戦える! 剣道三倍段って言葉もあるくらいだからなァ!


 ゴミ魔剣は俺の命令通りすぐに槍にその姿を変えた。うーん、長い! 実に頼もしい! 勝ったな、この勝負、ガッハッハ!


「……ほう、勇者様の手持ちの武器は自由に形を変えられるのですか」


 と、ラファディはそんな俺の武器交換に素直に驚いたようだった。


 だが、直後、


「では、せっかくなので私も」


 と、言うや否や、手に持っている剣を軽く振った。すると、それはたちまち槍に形を変えた。そう、リーチが長い、剣を持つ相手にすごく有利に戦えそうな感じに……って、おい!


「お、お前の武器も自由に形を変えられるのかよ!」

「はい。これは私の錬金術で作ったものですから」

「錬金術だとう……」


 ぐぬぬ。なんてやっかいな術なんだ! こっちの有利な状況が一瞬で覆ってしまったぞ!


「さあ、行きますよ!」


 と、ラファディはまたしても俺に襲い掛かってきた。今度は槍だけど。

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