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新しく現れたその通路もやはり一本道で、俺たちは迷うことはなかった。そしてやはり、その道は封印の間の番人のいる場所に通じていたようだ。そこを進んでいた俺たちはすぐに三人目のいる部屋にたどりついた。
ただ、そこはそれまでの場所とはうってかわって、とても明るいところで、花が咲き乱れていた。そして、その花に半ば埋もれるように棺が置かれており、そこに一人の女が腰かけていた。……ハープを奏でながら。って、なんだこの光景?
「おい、まさかとは思うが、お前が三人目の番人ってやつか?]
一目見た瞬間、尋ねずにはいられなかった。若い女だ。亜麻色の長い髪をした美女だ。薄い白い布を無造作に体に巻き付けた、古代ローマ人みたいな恰好をしている。頭にも月桂冠をかぶっている。まるで女神なりきりコスだ。
「はい。わたくしが最後の番人でございます」
「そうか。じゃあ、遠慮なく――」
どごっ! とりあえずその顔を思いっきり殴った。
「ギャーッ!」
女はどっかの王様みたいにきりもみ回転しながら背後の壁に激突した。
「な、なぜいきなり殴るのでございますか!」
「まあ、殴る以外の方法で倒さなきゃいけないだろうってのはわかってたが、今までの流れでな。まずは一発な」
そうそう。ここでこいつだけ殴らないでいると、散っていったあの二人に申し訳ないからなあ、はっはー。
「や、野蛮で乱暴なお方でございますね! このわたくしを、力で蹂躙しようとなさるとは!」
女は鼻から血をぽたぽた流しながら、俺をにらんだ。
「知るかそんなの。お前たちはどうせ俺たちの敵なんだろ? さあ、とっととどういう方法で勝負したいのか言え」
「ふふ。それはもちろん、このわたくしと美しさを競い合うのですわ!」
「美しさか」
それ、鼻血面で言えるセリフかなって。
「でも、美しさなんてあいまいなもんだろ。人それぞれ感じ方が違うし。そんなんで勝負になるのかよ?」
「なりますわ。この美しいわたくしが思わず目を奪われてしまうような、さらなる美しい人物が現れたとき、わたくしは真に敗北したと言えるでしょう」
「……ようはお前の気分次第かよ」
もうやだこのめんどくさいシステム。このさい、こいつの顔をぼこぼこに殴って、美しさからほど遠い造形にしたら勝ちでいいんじゃないかな。
と、拳を握りしめながらぼんやり考えていると、
「まったく、罪なベイビーだぜ。あんたよりきれいな人間なんているはずないのに、そんなことを言うなんて」
という声が近くから聞こえた。見ると、ヒューヴが何やらかっこつけたポーズで、女に熱い視線を送っている。
「あんたの美しさに、オレの凍てついた心はすっかり溶かされちまったぜ。ホットだぜ。地上に降りた最後の堕天使のはずのオレは、あんたの前じゃもはやただのカラスと同じさ、フフ……」
と、何やらバカっぽいポエムで女を口説いているようだ。こいつ、闇の魔力でキャラがおかしくなっても、女好きなのは変わらんのか。何が堕天使だよ。
まあ、そんな頭の悪いポエムで心を動かされる女がいるはずもなく――、
「な……なんて麗しい殿方なのでございましょう!」
って、いたよ! この女、思いっきりヒューヴにときめいちゃってるよ!
「あなた様のようなお方に、そのようなことを言ってもらえるなんて、わたくし光栄ですわ……」
と、顔を赤らめ、ヒューヴにもじもじしはじめる女だった。いや、いくら相手の顔がいいからってさあ。ちょろすぎじゃないの。
「あんたはささくれ立ったオレの心に舞い降りた女神だぜ。まるでオレの心の保湿剤だぜ。潤っちゃうぜベイベー」
「わ、わたくしもあなたの美しさに潤ってしまいますわ!」
美しい?二人の男女は見つめあい、熱く語り合っている。見ているだけで知能が下がりそうな光景だ。
「……なあ、お前、自分が目を奪われるようなやつが現れたら負けって話じゃなかった?」
とりあえず、絶賛潤っているらしいバカ女に尋ねてみた。
「ああ、そうでしたわね。この勝負、確かにわたくしの負けです。完敗です。このような素晴らしい殿方がいらっしゃるなんて思ってもみませんでしたわ……」
女はうっとりとヒューヴを見つめ、やがて、
「せっかくこうして出会えたのに、わたくしはもう行かなくてはいけませんわね。本当に残念ですわ。さようなら、わたくしの愛しい人……」
と、言い残し、他の二人と同様にすーっと消えてしまった。なんだったんだ、今のやり取りは。何かの勝負で勝ったのか、俺たち?
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