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新しく現れた通路はやはり狭く暗かったが、一本道だった。俺たちは迷うことなく先に進むことができた。
やがて俺たちはまた開けた場所に出た。そこにもやはり中央に棺が置いてあった。
ただ、さっきの男のそれとは違い、そのふたは最初から開いており、中の人も最初から外に出て、棺に腰かけていた。見た感じは、若い男のようだった。筋肉質のがっちりした体をしており、道着のような白い装束を身に着けている。顔には眼鏡をかけており、体格とは裏腹に知的な印象がある。
「やあ、よく来たな、チャレンジャー。私は君たちを大いに歓迎する!」
と、男は俺たちと目が合うやいなや、さわやかに話しかけてきた。おまえはどこのポケモンリーグのチャンピオンだよ。
「なあ、やっぱお前って、封印の間ってやつを守る番人の一人なのか?」
「ああ、もちろんだとも! 私ともう一人の番人を倒せば、君たちは晴れてラファディ様のところに行けるッ! なんてわかりやすい話なのだろう!」
男はハッハッハっと、白い歯を輝かせながら笑った。この言い方、すでに俺たちが編み物野郎を倒したことは知ってるのか。まあ、あれで倒したって言えるのか知らんが。
「ふーん? 今までいろいろあったが、あと二人ボコってであいつのツラがおがめるって言うなら、話は早いな。とっととお前を倒させてもらうぜ!」
俺は拳を振り上げ、高らかに宣戦布告した。
まあ、威勢よくタンカを切ったところで、こいつらはただ倒すだけじゃダメっぽいし、口だけなんだがなー。
「で、具体的にはどういう方法で勝負をつければいいので?」
「それはもちろん……これだ!」
男は自らの拳を高くかかげた。おお、これは!
「つまり、殴って倒していいんだな!」
どごっ! すかさずその男のボディにパンチをお見舞いした。
「ぐはあっ!」
男はどっかの王様みたいにきりもみ回転しながら背後の壁に激突した。まだあと一人の情報を聞き出さないといけないし、死なない程度に手加減したつもりだったが、思いのほかクリーンヒットしたようだ。
「おい、さっそくお前を拳で倒したぞ。残り一人はどこにいるのか教えろ」
「ちょ……待て。誰がいきなり攻撃して来いと言った……」
と、男は血反吐を吐きながらよろよろと立ち上がった。
「え、今のはダメなのかよ? 拳で決着をつけるんじゃねえのかよ?」
「それはそうだが、あくまで一対一という条件下においてだ。それ以外では私は決して敗北は認めないっ!」
「? 俺、今お前を一人で倒したよね? 一対一での勝負だよね?」
「違うッ! お前の後ろにはお前の仲間たちがいる! たとえ今、動いたのがお前だけだとしても、私のほうは常にお前だけではなくお前の仲間の動きにも注視していなくてはならないのだ! ようは気が散るってことだ! そんなのは本当の一対一の戦いではなーい!」
「えぇ……」
何この弱いくせにめんどくさい人たち。こんなのが封印とやらの番人でいいのかよ。
「じゃあ、今の一撃はノーカン?」
「当たり前だ。何事も、相応の準備が必要なのだ」
男はそう言うと、ふと眼鏡を手でつまんでクイッと持ち上げた。何やら、俺たちに見せつけるふうに。
「ふふ、実はこの眼鏡には高度で精密なカラクリが仕掛けてあってな。なんと、相手の戦闘能力を数字で鑑定することができるのだ!」
と、男は自慢げに言うが……言うが?
「あ、ドノヴォン国立学院にもありましたねえ、ああいう道具」
と、呪術オタがつぶやいた。そうだよね、今はわりとどこにでもあるもんだよね。こいつの現役時代(数百年前?)にはすごいアイテムだったんだろうけどさ。
「よし、勝負の前に、まずはお前たちの能力を測定してやろう! 右のレンズは魔法力、左のレンズは武術力がわかるからな。最初は魔法力から……」
と、男は眼鏡の右のレンズをほんのり光らせながら、俺たちを順番に見始めた。俺、ヒューヴ、シャラ、倒れているサキという順番で、最後に呪術オタを見たわけだったが、
「な……なんだこの異常な数字は! 魔法力の測定が終わらな――ぐはあっ!」
ぼんっ! 直後、その眼鏡型スカウターの右の部分は爆発した。
そして、割れたレンズが右目に入ったようで、
「ぐおおおっ! 目が! 目があああ!」
男は右目を手で押さえて床を転げまわった。お前はムスカかよ。
「おい、勝負の前から勝手にダメージ食らってんじゃねえよ。真面目にやれ」
「は、はは……魔法力の測定は少々不安定なところがあるようだな。左のレンズの武術力の測定ならば、問題は何もないはず……って、ぐはあっ」
男はよりによって最初に俺の武術力を測定し、またしても眼鏡型スカウターを爆発させた。今度は左の部分だが。
「ぐおおおっ! 目が! 目があああ!」
そして、またしてもこの醜態。お前は何がしたいんだよ。
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