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「いや、でも、編み物には道具が必要でしょう? ここにそんなものないし――」

「あるぞ」

「え」

「ここに、ほれ」


 と、男は棺の中から毛糸と編み棒をひょいっと取り出した。あるんだ、編み物セット。


「さあ、刮目して見よ! 我が編み棒さばきを!」


 男はそのままデモンストレーションのように何かを編み始めた。ものすごい速さで。指の動きも機械のようにとても正確だ。


 やがて、男はマフラーを完成させた。かわいいウサギさんの模様入りだ。おお、手編みでこの技術はなかなか……って、感心してる場合じゃない!


「ふふ。この私より編み物の技量に優れているものがいるというのなら、ぜひその腕前を見せてほしいものだな! そして、この私を大いなる敗北感で満たすがよい、はっはっは!」


 と、男は言葉とは裏腹にめちゃくちゃ自信たっぷりだった。負ける気がしない、みたいな。


 まあ確かに、こんなに器用に正確に編み物ができるやつなんて、そうそういない――。


「あ、僕、たぶんできますよー」


 って、いたよ! なんか近くで名乗りを上げてる呪術バカの男が!


「たぶんってなんだよ? お前、呪術のこと以外まるっきり使えないやつだろ?」

「いやー、編み物ができるのは、正確には僕じゃなくて僕の闇の翼なんですけどね」


 と、言うや否や、リュクサンドールは闇の翼を手のような形に変え、それで男の手から編み棒と毛糸を取り上げると、編み物をし始めた。男のそれにもまさるような、圧倒的な速さと正確さで。


 やがて、闇の翼はニット帽を完成させた。きれいな花の模様入りだ。男の作ったマフラーのウサギさんよりかは、複雑で手間のかかるもののように見えた。


「こ、これは……」


 男はその一連の動きと、完成したニット帽を見て震えているようだった。


「な、なんという、美しい仕上がり! ひと編みひと編みが正確ながらも、そこかしこに不均一さがあり、それが手編みならではの素朴さと安心感をかもしだしている! すばらしい! これは本当に人の手によるものなのか!」


 なんかめっちゃ絶賛してる。お、勝ったのか、この勝負。「人の手」は一切使ってないけどナー。


「僕、こういうのけっこう得意なんですよ。昔はよく、人間の髪の毛で編みぐるみを作って呪術に使ってましたからね」


 と、なんかさらっとまた狂った経歴を暴露している男だった。


「まあいい。この編み物勝負、お前の負けでいいんだな?」

「ああ……こんなものを見せつけられた日には、負けを認めざるをえないッ!」


 男はその場にがっくり膝を落とした。まさに敗北感マックスって感じだ。このステージはこれでクリアかな?


「じゃあ、残り二人も同じように負かすことにするから、どこにいるか言え」

「それは、この魔法のアイテムが導いてくれるだろう……」


 と、男はローブの下から何かをごろっと出した。見ると二本の、L字に曲がった細長い金属の棒だった。


 そして、直後、


「ああ、これでもう思い残すことはない。私より優れた編み棒使いが、世の中にはいるのだとわかったのだからな……」


 そうつぶやいて、光とともにその体はすっと消えてしまった……。


「ちょ、待て。こんな棒きれで何を探せって言うんだよ! もっと説明しろ!」


 俺はとっさに叫んだが、時すでに遅しだった。男の姿はもうどこにもない。棺に入っていたり、敗北感マックスで消滅するあたり、やはり亡者みたいなもんだったんだろうか。それにしたってこんなの手渡されてても……って、ん? この形は……?


「もしかしてこれ、ダウジングロッドか?」


 そうそう、水脈を探すとか言うアレね。


「じゃあ、これ持ってそのへん歩けば何か見つかるのか?」


 さっそくその二本の棒を両手に持ち、適当に近くをうろうろしてみた。すると、とある壁の前でロッドが反応した。もしやここか? とりあえず、その壁を拳で破壊してみた。ドゴッ!


 すると……新たな通路が現れた! おお、やったぜ!


「よし、残り二人もとっとと倒しに行くぞ!」


 他に道はなかった。俺たちはその通路に進んだ。

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