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「なあ、俺たちラファディってやつをずっと探してるんだよ。お前、やつの居場所知らないか?」
何から話したらいいのかわからんので、とりあえず直球でこう尋ねてみた。
すると、
「はは、ラファディ様なら常に私たちの心の中にいらっしゃる」
などと意味不明なことを言っており。
「いや、心の中にいるとか、そんな死んだ人間みたいなこと言わないでさあ。もっと具体的なことを言おうよ! 子供じゃないんだからさあ!」
イラっとしたので、そのローブの胸倉をつかんで揺さぶってみた。
「そうだな。具体的な場所の名前を言うことはできないが、お前たちがそこにたどり着くための方法なら、たった一つ存在する。それは、お前たちが我々三人を倒すこと――」
「あ、そうなんだ。倒していいんだ」
どこっ! すかさずその男の顔面を殴った。
「ぐはあっ!」
男はどっかの王様みたいにきりもみ回転しながら背後の壁に激突した。死なない程度に手加減したつもりだったが、思いのほかクリーンヒットしたようだ。
「おい、さっそく一人倒したぞ。残り二人はどこにいるのか教えろ」
「ちょ……待て。誰が拳で倒せと言った……」
と、男は血反吐を吐きながらよろよろと立ち上がった。
「え? グーはダメだったのか? じゃあ、パーでいいか?」
「パ、パーもダメだ!」
「じゃあ、気が進まないけど、チョキで両目をつぶす感じで――」
「ダ、ダメだと言ってるだろう! 少しは私の話を聞け……ぐはっ」
血が肺に入ったようで、急にせき込みだす男だった。いったいなんなんだよ。
「よ、よいか。ここで重要なのは、私が絶対的な敗北感を感じることだ」
「いや、だからお前、今俺に負けたじゃん? 敗北感マックスじゃん?」
「マックスじゃない! 元来、私は非力なほうなのだ! たとえ誰かに拳で負けても私にとってそれは日常茶飯事で、せいぜい痛くて悲しい気持ちにしかならない! それはつまり敗北感とは違う!」
「はあ」
世界はそれを敗北感と呼ぶんじゃないのか。違うのか。
「そもそもなんでお前を敗北感で満たさなきゃいけないんだよ。こっちはお前を適当に痛めつけて情報引き出したいだけなんだが」
「はっは。さらっと本音を吐きおって。だが、よい質問だな。答えてやろう。実は私は、ラファディ様がいらっしゃるはずの封印の間の番人の一人なのだ。私を含め、これは全部で三人いる」
「ふうん? その番人の三人を倒せば、封印の間とやらに行けるシステムなのか?」
「さよう。だが、ただ力で倒せばいいというわけではない。番人それぞれの魂に強く訴えかけ、絶対的な敗北感を与えることが、ここでいう『倒す』というになるのだ。そう、三人の魂を大いなる敗北感で満たしたとき、封印の間への扉は開かれるッ!」
「なにそのめんどくさい条件……」
大いなる敗北感とか意味わかんねえし。ようはこいつらの気分次第ってことかよ。
「じゃあ、お前は何をされたら敗北感を感じるんだよ? 読もうと思っていた本のネタバレをされたときとかか?」
「まあ、それもかなり敗北感を覚えるだろうが、封印の間を開放するほどのものではないな。そこはやはり、私の得意分野で攻めてもらわないと」
「得意分野?」
「そう! 実は私は、編み物が大の得意でな!」
「え」
「この私の特技、編み物で、私の技量をはるかに上回るものが現れたとき、私は真に絶望し、大いなる敗北感で満たされることだろう!」
「えぇ……」
まさかとは思いますが、ここでこいつと編み物勝負して勝たないと、次のステージに進めないって展開ですかいコレ?
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