395

 俺たちが逃げ込んだ通路には照明がなく、暗かった。ホールの天井が完全に崩落し、そこからの魔法の照明が途絶えると何も見えないくらいになった。


「フッ、オレを包む闇は深まり、オレは手探りのまま真実を求める。イン・ザ・ダークネス……」


 と、近くからヒューヴの声が聞こえてきた。まためんどさい言い回しだが、こいつ鳥人間だし、暗いところは苦手だっけ。夜目がきかないんだよな。


「わかったわかった。明かりをつけるからちょっと待ってろ」


 俺はすぐにトーチを出して火をつけた。変態女が気絶してるから、今はこういう道具に頼るしかない。俺以外は全員魔力キャラのくせに、照明になるような魔法は一切使えないからな。炎上するとか問題外だし。


 トーチの明かりで周りを照らしてみると、そこは確かにしっかりした通路のようだったが、さっきまで俺たちが進んでいた通路よりは狭く天井も低かった。いったいこの先に何があるんだろう? 他に選択肢はなかったし、俺たちはそのままそこを進んでいった。


 するとやがて、俺たちはまた開けた場所に出た。小さな部屋だった。その中央にはやはり棺が置かれており、他には何もないようだ。


「これもどうせ罠なんだろうな」


 とりあえず、それをいろんな角度から観察してみた。古びた、石でできた簡素な棺のようだった。ただ、フタには古代文字で何か書いてある。


「これなんて書いてあるんだ?」

「ハッ、学のないボンクラはこれだから。いいかい、よくお聞き。これは『開けないでください』って書いてあるんだよッ!」


 と、シャラがイキりながら教えてくれた。スケバンキャラのくせに親切かよ。


「なるほど。この中にいる人は、今はお休み中なんですね。僕もこういうの棺に貼って寝ることありますし」


 と、日ごろから棺で寝る習慣のある男は納得しているようだが……いやいやいや? こんな、棺以外何もない場所で、肝心の棺に「開けないでください」って書いてあるとか。不自然すぎるだろうがよ。


「もしかすると、この文言自体も罠なのか? 開けないでください、だから、開けたほうが逆にいいとか?」


 いやでも、そういう心理を逆手に取ったさらなる罠なのかも? 人間、「押すなよ? 押すなよ?」って言われると、そういうギャグかと思ってとりあえず押すからなー。つまり、これもその手の誘導……?


「……まあいい。なんかあやしいし、開けるなって書いてあるんだから、これは見なかったことにして、他の場所を探そう。これ以外にも何かあるはずだろ」


 俺はみんなにそう言うと、ひとまずその棺の前から離れた。


 だが、直後、


「ちょ……ちょっと待ていっ!」


 そんな声とともに、棺のフタが開き、中からローブ姿の男が出てきた。


「なぜ私をスルーする! なぜ見なかったことにする! こんな、いかにもな感じの棺が置いてあるというのに!」


 ローブのフードの下から、めちゃくちゃ早口の怒号が飛んできた。なんだコイツ? まさここでずっと誰かが来るのを待っていたのかよ。


「ああなるほど。その棺は中から開くタイプだったんですね。きっと外からだと開かないんでしょう。だから、フタに『開けないでください』って書いてあったんですねえ。吸血鬼安眠用だとそういうデザインのもありますよね。僕も昔似たようなものを使ってましたけど、口から溶けた鉛を流し込まれたときに壊されてしまって――」

「ち、ちがっ! この棺のことはどうでもいい! というか、口から溶けた鉛を流し込まれるってどういう状況だ!」


 男はやはり早口だった。まあ、そこにツッコミたい気持ちはわかる。肝心のリュクサンドールは「いろいろあったんですよー」としか答えなかったが。


「お前は結局、その棺を開けてほしかったのかよ?」

「そうだな。7対3くらいの割合だな」

「割合?」

「開けてほしくない気持ちが7、開けてほしい気持ちが3」

「……じゃあ、スルーでいいじゃねえかよ。開けてほしくない気持ちのほうが多いんだからよ」

「何を言うッ! その行為は私の残りの3の気持ちを蹂躙したということなのだぞ! これが憤らずにはいられようか!」

「あ、はい」


 なんかもうめんどくせえ。いきなり棺からポップアップして何この意味不明なセリフ。

「で、お前は俺たちの敵なの? 俺たち一応、これからラファディって男を倒しに行くんだが?」

「はは、貴様らごときがラファディ様に勝てるわけないだろう!」

「ああ、お前もあいつの手下なのか」


 つまり敵か。倒していいのかな。でも、こっから先どう進めばいいのかわからんな。何かこいつから情報引き出してからでもいいかな。うーん?

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