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 さて、役立たずの女が一人加わったところで、俺たちは再び城の探索をスタートさせた。いい加減ラスボス出て来いよ。モグラみたいに地下に潜って隠れてるのかよ?


 そして、その途中に役立たずの女に今までの経緯を簡単に説明したわけだったが、


「ああ、そういうことだったら、あやしい部屋があったわよ」


 などと言うのだった。お、新展開か?


「あやしいってなんだよ?」

「そりゃあもちろん、あやしさに満ち溢れた部屋よ」

「そ、そう……」


 具体性ゼロだ。もはやその証言自体があやしい。


「まあいいか。ここはお前の話を信じてやるよ。他にアテもないしな」


 そういうわけで俺たちはシャラに案内されるがまま、そのあやしい部屋とやらに行ったのだった。


 着いてみるとその部屋にはたくさんの調度品や美術品が置かれていた。物置、いや、ちょっとした宝物庫のようだった。


「で、ここの何があやしいんだ?」

「全部よ」

「え?」

「こんなにたくさん物が置いてあるんですもの。絶対どれかに何かがあるわ」

「どれかに……何か……」


 うーん、現場についてもこの具体性ゼロの発言。こんな女に期待した俺がバカだったわ。


「では、ここはてっとりばやく、火葬の編み細工ウィッカーマンで全部焼いてしまいましょう!」

「いや、お前、何ウキウキで俺たちごと燃やそうとしてるの! やめてよね!」


 俺はあわてて近くの呪術バカを止めた。なぜこいつは、さっきから隙あらば火葬の編み細工ウィッカーマンを使おうとするのか。こいつの今日のラッキー呪術か何かか。


「そうね。せっかくシャラさんが案内してくれたんですもの。何かここに手掛かりがないか、一通り探してみましょう。もちろん火気厳禁でね」


 と、変態女はシャラをフォローしながらしれっとリュクサンドールに釘をさした。こいつもやっぱり近くで炎上されるのは嫌なのかな。火力ぱねえからなあ。


「しゃーねーな。なんもなかったらすぐ出るぞ?」


 俺はしぶしぶみんなと一緒にその部屋をあさりはじめた。どうせ何もないだろうと思いつつ。がさごそ、がさごそ……。なお、ヒューヴはまじめに探す気がないらしく、そのへんにある装飾品を身に着けて遊んでいた。まあ、隙あらば炎上しようとする男よりはマシか。


 と、そんなとき、


「見て、これを」


 変態女が何か発見したようだった。その指さしているほうを見ると、何もないただの壁のようだったが……?


「そこになにがあるのか?」

「ええ、表面に塗られた塗料の下にね」


 変態女はそこに手をかざし、何か魔法を使ったようだった。たちまち、その塗料とやらが剥がれ落ち、そこから下に続く階段……の絵が現れた。


「いや、これ絵じゃん!」


 探してるのはこれじゃないんですけど! 二次元じゃなくて三次元なんですけど!


 だが、変態女は、


「確かにこれは絵よ。でもただの絵じゃないわ。これは一種の封印なの」


 などと言うではないか。


「封印ってなんだよ?」

「実際にあるものを、絵の中に閉じ込めているのよ。そういう封印術なの」

「え、じゃあこれは……」


 絵だけど絵じゃないのか。本物の階段なのか。


「じゃあ、さっそくその封印とやらを解いてくれよ。こんなところに階段が隠されているとか、アタリに決まってるしな」

「……それが、そう簡単に封印が解けるものでもないのよ」


 変態女は急に困惑顔になった。こいつが魔法がらみでこんな顔をするなんて、よっぽどめんどくさい術なのか。


 と、そのときだった。その階段の絵の上に、さらに顔の絵が現れた。(-_-)みたいな、ひどくシンプルな顔だ。


 しかもその顔のやつ、


「封印解除を希望されるのでしたら、最初に設定された秘密の言葉を入力してください。『母親の旧姓は?』」


 と、俺たちに言ってくるではないか。


「ちょ、待て! これの封印解除って、ポイントサイトのポイント交換申請みたいな手続き必要なのかよ!」


 誰の母親の旧姓だよ。知らねえよ、そんなん!

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