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門から塀の中に入ると、そこには青々とした草や木が生い茂る庭が広がっていた。やはり洞穴の底とは思えない光景だ。また、そんな庭を進んで城の中に入ると、今度は俺たちの目の前にたくさんのメイドたちが現れた。
「ようこそ我らがあるじのお城にお越しくださいました、お客様がた!」
メイドたちは、俺たちに向かっていっせいに頭を下げながら言った。いずれも、よく訓練されたメイドのように見えた。若くてかわいい女の子ばっかりだし。
しかし、こいつらはいったい……?
「勇者様、彼女たちは
と、そこで変態女が耳打ちしてきた。ああ、そうか、やっぱりホンモノの人間のメイドじゃないのか。まあ、こんな得体のしれない城にいるんだからなあ。
「……で、こいつらは敵なのか?」
「それはまだわからないけれど、どうやら彼女たちは、普通の人間とそう変わらない程度の能力しか持ってないみたいだわ」
「ふーん。じゃあ、マジでただのメイドか」
少なくとも俺たちの脅威ではなさそうだ。
「お客様、おもてなしのご用意ができていますわ。こちらへどうぞ」
メイドたちは何やら俺たちを城の奥へと招いている。
「おもてなし、か……」
いったいなんだろう? やっぱり、ここのラスボスとやらが俺たちを待ち構えているとかかな? とりあえず、そのメイドたちに案内されるがまま、俺たちは城の奥へと進んだ。城の中は掃除が行き届いているようで、きれいだった。内装も立派だ。まるでどこかの大貴族の城だ。
やがて、俺たちが通されたのは城の食堂だった。そこもやはり、広々としていて立派で、中央には何十人もの人間が一度に座れそうな巨大なテーブルが置いてあった。そして、その一角には食事が置かれていた。俺たちの人数分あるようだ。
「おもてなしって、まさかメシのことか?」
「はい。ぜひお召し上がりくださいませ」
メイドたちは満面の笑顔で言う。
「いや、いきなりそんなん言われても……」
ここ一応、悪い奴の根城でしょ? そんなところのメシなんか、おいそれと食えるもんでもないでしょ。毒とか入ってるかもしれないでしょ。
と、俺はノーサンキューな気持ちでいっぱいだったのだが、
「うわー、マジうまそー! いっただきまーす!」
「ありがとうございます。ちょうど僕、おなかがすいていたところだったんですよねえ」
近くのクソバカ鳥野郎と間抜け呪術師は警戒心などみじんもないようで、すぐに席に座って食い始めてしまった。
「おいおい、だいじょうぶかよ?」
「……心配いらないわ。あれに毒は入ってなさそうよ」
変態女はテーブルの上の食事のほうに手をかざし、小さな魔法陣を出しながら言った。鑑定系の魔法か。食事が毒入りかどうかもわかるんだな。便利だな。というか、少し前からうすうす思ってたけど、この女の魔法や知識、ここで役に立ちすぎじゃない? もう俺とこいつだけでいいだろ。他の二人はバカ丸出しだし。
「まあ、食うかどうかは別として、とりあえず座るか」
「そうね。私たちだけ立っているのもね」
俺たちもそのままバカ二人の近くの席に腰かけた。置かれている食事はどれも豪華でうまそうだったが、やはり食う気にはなれなかった。近くの飢えたバカどもに全部あげた。変態女も俺と同じことをしているようだった。
と、そんなとき、
「……どうですか。みなさま。我が城の自慢のフルコースは」
と、言いながら、一人の男が俺たちのところにやってきた。見たところ、三十そこそこぐらいの若い男だ。長身で、がっしりした体つきで、貴族風の優雅なコートをまとっており、灰色の長い髪を無造作に背中に流している。顔はよく整っていて精悍さがあり、瞳はサファイアのような鮮やかな青い色だ。
「あんたが、この城のあるじか?」
「はい。ラファディと申します。はじめまして、勇者アルドレイ様」
と、ラファディと名乗る男は言って俺にうやうやしくおじきした……って、なんでこいつ、俺の正体知ってるんだよ?
「なあ、やっぱこいつが、この封印窟のラスボスか?」
こっそり亀妖精に尋ねてみたが、
「うーん? 名前はあっとるんじゃがの。わしこんなやつ知らんし?」
なんか意味不明な答えが返ってきた。つまりどういうことなんだよ?
「ベルガド様が戸惑いになられるのも無理はないでしょう。この体はいわば、傀儡のようなものですから」
「傀儡? つまり、本物のラファディ君は別の場所にいて、そこからそこのお前を遠隔操作してるってわけ?」
「はい、その通りです。さすが勇者アルドレイ様。ご理解が早い!」
と、笑顔で俺に拍手するラファディだった。いや、そんなんでさす勇されてもな。ようするにこいつ、ここのラスボスのラジコンかよ。
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