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「シャラちゃん、なんですぐどっか行っちゃうかなあ。オレにハートを奪わせてくれよー」


 時間停止の術を解かれて無事に再起動したヒューヴは、シャラが去っていったほうを未練がましく見ながら言った。いやお前、あの女のハートどころか命を奪いかけてただろうがよ。


「……ふう、ようやく冷却娘は立ち去ったようじゃの」


 と、そこでどっからともなく亀妖精が出てきた。冷却娘ってのはシャラのことか。


「お前、今までどこに行ってたんだよ? 急にいなくなりやがって」

「いやー、わしはなんせ爬虫類じゃからの。寒いのは苦手なんじゃよ。だから、あやつが氷結魔法で暴れておる間はちょっと隠れておったのじゃ」

「お前、本当にディヴァインクラスのレジェンドなのかよ」


 いくら思念体だってさあ。威厳とか風格とか何もなさすぎじゃないの。そのへんのリザードマンと同じレベルじゃないの。


「……で、次はどこに行けばいいんだよ?」

「そりゃあもちろん、このさらに下じゃ」


 亀妖精は広間の隅を指さした。そこに行ってみると、魔法陣があり、亀妖精が手をかざすとすぐにそこから下に続く階段が現れた。


「次が最下層じゃ。そこに封印されているのは、今までの魔物とは比べ物にならんぞ。覚悟して進むんじゃな」

「ふーん、いよいよラスボスってわけか」


 ま、なんでもいいや。早く倒して仕事を終わらせよう。俺たちはそのまま階段を下りて行った。なお、冥府の番犬セルベロスのレア個体のチワワはその間に消えてしまった。ドノヴォン国立学院で習ったところによると、術で召喚された魔物ってのは術者の魔力で仮の姿を与えられているだけの状態だから、一定時間たつと消えるんだっけ。まあ、ずっとあんな凶暴なチワワに居座られてもな。


 やがて、俺たちはこのベルガド封印窟の最下層とやらに到達した。階段を降り切ったのだ。


 ただ、さっきの大氷結の間とやらと違って、降りた先に扉はなかった。いきなり開けた空間が広がっていた。しかも、そこは洞穴の中とは思えないくらいに明るかった。


「……なんだこれ?」


 俺はちょっと目を疑った。俺たちの前にあるのは大きな城だった。それが、城の周りにいくつも浮遊している魔法の光に照らされている。



 さらに、城には堀があり、中へ通じるための跳ね橋があった。今はそれは上がっている。また、堀の周りの地面も、今までの岩肌がむき出しのところとは違って、草が生えていた。


「なんと! いつのまにこのような姿に!」


 と、その光景を見て亀妖精も驚いているようだった。


「おい、案内役のお前が驚いてどうするんだよ。いったいこれはなんなのか、説明しろ」

「ここにおる者は、あまりにも力が強すぎたため、やつのいる城ごとここに封印せざるをえなかったのじゃ。何年もかけてやつの居城そのものに強力な封印術式を展開してのう。じゃが……この様子では、その力はもう完全に失われているようじゃな」


 亀妖精はかつてないほどシリアスな表情をしている。ここのラスボスなだけに、マジでやべーやつなのか。


「……確かに、ここにはかなり強力な結界が張られていたみたいね」


 変態女も城のほうに手をかざし、何やら小さな魔法陣を目の前に展開しながら言う。鑑定系の魔法だろうか。


「いったいどんなやつがここにいるんだよ?」

「かつては人であった男じゃ」

「かつて、か。今は違うのか」


 人間やめて超パワーアップした系ね。ボスキャラあるあるー。


「まあ、なんでもいいや。そいつがこの城の中にいるって言うんなら、早く倒して帰ろうぜ」


 俺は城のほうを指さしながら言った。


 すると、まるでその言葉に反応したかのように、堀の跳ね橋がひとりでに降りた。


「わあ、親切ですね。これで楽にお城に入れますよ」


 と、呪術オタはのん気に言う。お前はそもそも飛べるだろうがよ。


「私たちがここに来ているのを、すでにあっちも気づいているってことね」


 一方、変態女は緊張した顔つきだ。こいつがこんな顔するってことは、やっぱりガチなのか。


「とにかく、早く行こうぜ」


 俺たちはそのまま跳ね橋を渡り、城の中に入った。

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