379
『マスター、いい感じに打ち解けたようですし、そろそろ本題を切り出すタイミングですヨー?』
「ああ、そうだったな」
BLなんかどうでもいいんだ。何がリバだよ誘い受けだよ。ばかばかしい。
「なあ、そろそろこいつらの術を解いてくれないか。実は、こいつらもその本のファンでさ」
「そうね。この二人の術なら解いてあげてもいいわ」
と、ヒューヴとリュクサンドールを指さすシャラだった。
「ちょ、待て。なんでこいつらだけなんだよ?」
「だって、よく見たら二人ともイケメンだし」
「いや、顔は関係ないだろ! この人の術も解いてあげようよ!」
俺は変態女を指さし、必死に訴えたが、
「いやよ。こんないかにも『見せつけてる』って感じのファッションの女、私嫌いなの。でかければいいってもんじゃないわよ」
どうやらシャラは変態女の巨乳にイラついているようだ。見たところこいつは貧乳そのものだからだろうか。
いやでも、よりによって、変態女だけこのままというのも困る。というか、むしろ変態女だけ術を解いてほしいんだが!
と、そのときだった。
「……残念ね。あなたみたいな優秀な魔術師に嫌われてしまったなんて」
という声とともに、その変態女が動き出した! 術が突然解けたようだった。
「な、なんで……」
シャラは当然、びっくり仰天している。
「ごめんなさいね。本当はすぐにでも動けたんだけど、なんだか面白そうだからしばらく様子見してたの」
変態女はいたずらっぽくウィンクしながら言った。
「ちょ、ちょっと待って! 私の
「悪いわね。私って、そういう魔法に対する対策用の術を、つねに自分にかけているのよ。人生、何があるかわからないでしょう?」
「あらかじめ対策してたですってえ……」
シャラは顔面蒼白だ。完全にやられたという感じか。
まあこいつはもうどうでもいいか。適当にボコって、変態女だけ連れて先に進むか。残った二人の男は何やっても術が解けないらしいからな。そう、何をやっても……。
と、思ったわけだったが、
「……あれ? なんか様子がおかしいですね?」
という声とともに、リュクサンドールも勝手に動き出しやがった。こいつも術が解けたのかよ。
「な、なんであんたまで術が解けてるのよ!」
「あ、なんか今まで封印系の魔法を使われてたみたいですね? たぶん僕、昔から色んな人にそういう魔法いっぱい使われてきましたから、耐性ができてるんじゃないでしょうかねー?」
「耐性……ですって! そんなデタラメな話があるわけないでしょう!」
存在そのものがデタラメな男にそれ言ってもな。
「だいたい、色んな人に封印系の魔法を受け続けてきたって、あなたいったいどういう人生を歩んできたのよ!」
「ああ、こう見えても、彼は世界で一番邪悪な呪術師なのよ」
と、変態女がかわりに答えた。
「いや、サキさん、邪悪は余計ですよ。僕はただ真摯に呪術を研究しているだけなんですからね」
邪悪な魔物はへらへら笑って言う。自覚がない邪悪ってほんとやっかいよね。
「呪術、ですって……」
と、シャラの顔はますます青くなった。こいつ、呪術にトラウマでもあるのか。まあ、人の心にトラウマを植え付けるしか使い道のない術だが。
「呪術はすばらしいんですよ。ほら、こんなかわいらしい動物も召喚できます」
呪術オタは変態女と一緒に時間停止が解けた
「あ、確かにかわいいかも」
その愛くるしい姿にシャラもとたんに心を奪われたようだった。無防備にチワワを受け取った。
そして、直後――そのチワワに襲われた!
「ギャアアアアッ!」
チワワのやつ、やはり狂暴そのものだった。シャラの手に渡されるやいなや、シャラの顔面に食いつき、何やら食いちぎり、さらに腹にもかみついて、何やら腹の中から引きずり出していた……って、一か月前の俺よりだいぶ悲惨な光景だな、オイ! 防御力低いとこんなに被害が出るのかよ、このクソ犬。
「あ、言い忘れてましたけど、
と、のほほんと言う呪術バカだった。なぜこいつは、いつも肝心なことを言い忘れるのか。やはり邪悪の権化か。
「まあ、大変」
と、変態女はあわてて半分肉塊と化しているシャラに近づき、チワワを引きはがした。そして、回復魔法を使ったようだった。たちまち、その肉塊が元の姿に再生した。ドレスはボロボロのままだが。
「だいじょうぶかしら、シャラさん?」
「だ、だいじょうぶなわけないでしょう! うええええんっ!」
よほど怖い思いをしたのだろう。シャラは子供みたいに大泣きしはじめた。
「シャラさん、これにこりたら、もうこの二人には手を出さないことね。また痛い思いをするわよ?」
と、変態女は俺とリュクサンドールを交互に指さしながら言う……って、俺もこの呪術オタと同じ扱いなのかよ!
「……わかったわ。二人とも、ついかっとなって攻撃しちゃってごめんなさい。私が悪かったわ、許してください」
シャラは涙目のまま俺たちに何度も頭を下げた。そして、残ったヒューヴの時間停止の術を解くと、そのまま出口のほうに逃げて行ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます