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「……で、お前はなんのつもりで、俺たちにメシなんて用意してたんだよ?」


 ラファディ(のラジコン)が俺たちと同じテーブルに着席したので、俺はそのまま質問してみた。近くの、メシを食っているバカどもを指さして。


「はは、そう警戒なさらずとも。私に妙な下心などございませんよ。なにせ、ここにお客様がいらっしゃるのは数百年ぶりなのです。お互いの目的がどうであれ、まずは楽しく会食し打ち解けたいと思ったまでです」


 ラファディは、後からやってきたメイドが運んできた自分の料理を優雅に食べ始めながら言う。


「お互いの目的、ね……」


 その口ぶりだと、俺たちがなぜここに来たかはもう知ってるのか。なぜか亀妖精や俺の正体も知ってたしな、こいつ。


「まずは、改めて自己紹介といきましょう。私の名はラファディ。錬金術師のはしくれにして、死霊交信術ネクロマンシーも少々かじっているものです」

「ふうん。ご親切にどうも」


 なるほど、錬金術師だから、ここに魔造人間ホムンクルスのメイドがたくさんいるわけか。傀儡だというこのラジコン男もそうなんだろうか。


「それで、なんであんたはこんなところに封印されてるんだよ? 何やらかしたんだよ?」

「なに。少しばかり、錬金術の研究に没頭しすぎたようでしてね。人の常識の範疇を超えてしまい、うとまれてしまっただけですよ」

「ようするにお前、マッドサイエンティストか」


 近くに似たようなやつがいるから話もわかりやすいかなって。


「ただ、くしくもここに蟄居せざるを得なくなったことは、私にとっては結果的に幸運なことでした。誰にも邪魔されずに自分の研究に没頭できるのですからね」

「研究じゃと? バカな! 封印の中でそのようなことできるわけないじゃろう!」


 と、亀妖精がラファディの言葉にぎょっとしたようだったが、


「ああ、確かに、この城にかけられていた封印は大変強力でしたね。その中では私はほぼ何もできず、動けず、ただ屍のように横たわっていることしかできなかったでしょう。まあ、そんなものはすぐに解除できましたけれども」


 ラファディはそんな亀妖精ににっこり笑って答えた。こいつ、封印解けてもそのままここに引きこもってたのかよ。


「え、でも、研究っていろんな資料が必要ですし、実験材料なんかもいろんなところから集めなくちゃいけませんよね? ずっとここにいて、研究を続けるのは大変だったんじゃないですか?」


 と、もう一人のマッドサイエンティストの呪術オタが疑問を口にした。


「ああ、研究に必要な情報に関しては、常に交信術チャネリングで外界から最新のものを入手していましたよ。実験に必要な材料も、幸いこの上の階層に、氷漬けにされたものがたくさんありましたしね」

「あいつらを研究に使ってたのかよ」


 氷の封印っていったい……。こんなやつが自由に出入りしてたとか、ガバガバじゃねえか。


「まあ、あんたの事情はだいたいわかった。ただ、なんで俺たちのことを最初から知ってるんだよ? 俺たち、初対面のはずだよな?」

「それはもちろん、ベルガド様のお心に直接お聞きしたのですよ」

「え? わし?」


 と、またしてもびっくりしている亀妖精だった。そんなん知らんよって感じか。


「はは。ベルガド様が驚かれるのも無理はありませんね。あなた様のお心に直接お聞きしたと言っても、ようは私の交信術チャネリングで、あなた様の意識に干渉し情報を抜き取っていただけですから。いわば、盗み聞きです」

「わ、わしの心をこっそり術でのぞいていたじゃと! なんていやらしいやつなんじゃ!」


 と、今度は何やら恥ずかしそうに顔を赤らめ、もじもじする亀妖精だった。そういや、こいつメスだったな。


「ラファディさん、交信術チャネリングで彼女の心をのぞいていたなんて、なかなか興味深い話ね。ディヴァインクラスのレジェンド・モンスターを相手に、そんなことができるなんて」


 と、変態女が口を開いた。


「そうですね。確かに、ベルガド様は大変強いお力をお持ちです。全盛期の、まだ若々しい彼女相手では、さすがに私もそのようなことはできなかったでしょう。しかし、今となっては、彼女はすっかり老いてしまわれました。その力もほぼ失われかけており、私ごときでも何かしらの術をかけることは可能だったのですよ」

「わ、わしをババア扱いするでない!」


 と、今度はぷりぷり怒る亀妖精だった。さっきから情緒不安定だな、こいつ。


「落ち着け、ババア。こいつにどう言われようと気にすんな。どうせすぐに俺たちが始末するんだからな」

「おお、そうじゃったな……って、おぬしもどさくさにわしをババア扱いするでない!」


 ぽかっ! いきなり俺に殴りかかってくる亀妖精だった。まあ、痛くもかゆくもないが。

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