373

「で、この後はどこに行けばいいんだよ?」


 俺は亀妖精に尋ねた。ウェディングドレス姿から解放されて気分は爽快だったが、さすがにこれで終わりというわけではないだろうし。


「次はこの地下じゃ」


 亀妖精は俺たちのすぐ足元を指さした。


「地下? また落ちるのかよ」

「安心せい。ちゃんと階段はあるでの」


 と、亀妖精が言った通り、たちまちその場所には下に続く階段が現れた。というか、この階段の場所、あの霊が居座っていたところのちょうど真下だな。


「もしかして、あの霊をどうにかしない限り、こっから先に進めない構造になっていたのか? だから俺に、四人集めろって言ったのか?」

「まあ、そうじゃな」

「……そんだけの理由だったのかよ」


 四人がかりじゃないと絶対に倒せない敵がいるとか、もっと他にあるだろうがよお。


「じゃが、ここから先はさらなる強敵ぞろいじゃぞ。仲間は多いほうがよかろう」

「ま、確かに、人数が多いほうが仕事は早く終わるか」


 俺たちはそのまま地下へ続く階段を下りて行った。当然真っ暗だが、変態女の照明魔法のおかげで特に不自由はなかった……のだが、


「あ、もっと明かりが欲しいなら、僕が火葬の編み細工ウィッカーマンで周りを照らしますよ? どうですか一発?」


 と、さらに頭のおかしい男が頭のおかしい提案をしてくるのだった。お前のその術、明らかに照明用じゃないよね? 人をケシズミにするための術だよね? まあ、当然無視だ。


 やがて俺たちは階段を降り切り、扉の前に出た。この向こうにさらなる敵がいるんだろうか。


 ただ、その扉はコチコチに凍っていた。扉の周りの空気もかなりひんやりしているようだ。なんだろう。氷魔法の封印かな?


「おお! こんなに凍っていては、扉が開けられませんね! 今こそ、火葬の編み細工ウィッカーマンを使うとき!」

「いや、それはいいから!」


 俺はあわててやつをゴミ魔剣でぶった斬り、その詠唱を阻止した。だから、むやみに人をケシズミにする魔法を使うんじゃない!


「これぐらいの氷、俺がなんとかしてやらぁ!」


 そして、そのまま勢いよく扉を蹴った。ドーンッ! 扉を覆っていた氷は割れ、扉も中に吹き飛んでいった。どんなもんでいっ。


「すごいわ、勇者様。あんな上級の氷結封印術を蹴りだけで破るなんて。さすがのバカ力ね」

「バカ力っていうか、もはやただのバカだよなー」


 と、後ろから変態女とバカの声が聞こえてきた。バカにバカって言われたくないんですけど!


「いいから、とっとと仕事終わらせるぞ!」


 俺たちはそのまま中に入った。そこは扉と同様に氷で覆われた広間のようだった。空気は冷え冷えとしており、あちこちに何か閉じ込められた氷の塊が置かれている。


「……もしかして、あの氷に包まれているのが、ここに封印されているモンスターか?」

「そうじゃ。ここはベルガド封印窟第二の間。通称、大氷結の間じゃ。多くの邪悪な魔物たちを氷結系の魔術で氷漬けにして封印しておるのじゃ」

「あ、氷の封印魔術なら僕も何度か受けたことがあります。あれ、呼吸できないし、冷たいし、かなりきっついんですよねー」


 と、近くの邪悪な魔物が答えた。だからなんでこいつは、無駄にその手の経歴が豊富なんだよ。


「……この氷は、絶対刹那氷結術アブソリュート・モーメントね。相当に熟練した術者によるものだわ」


 変態女は周りの氷を見回しながら言う。よくわからんが、かなりの匠の仕事らしい。


「まあ、きっちり封印されてるんなら、ここのやつらはスルーでいいか。とっとと先に――」

「いや、それは無理じゃ。ここの封印はすでにその力をほぼ失っておる」


 と、亀妖精が言った直後だった。周りの氷が、ピキピキッと音を立てて次々と割れ始めた。


 そして当然、そこからはモンスターたちが次々と現れてくるわけで……。


「もしかして、こいつら全部片づけろってことか?」

「まあ、そうじゃな」

「……めんどくせえな」


 というわけで、唐突に俺たちのゴミ掃除のお仕事は始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る