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 俺はそのままウェディングドレス姿で森を駆け抜けた。ゴールの会場まで続くと思われる道はあったので、進む方向に迷うことはなかった。


 もちろん、その途中、ドレスを汚すためのさまざまなトラップが待ち受けていたが、俺にとっては切り抜けるのは余裕だった。ノーダメージのままガンガン突き進んだ。


 だが、そんな俺の前に突如として、一人の女が現れた!


「お、おっぱいが……おっぱいが……」


 女はそう言いながら、苦しそうに胸を手で押さえて道の真ん中にうずくまっていた。普通の村娘風のワンピースを着た若い女のようだ。すらっとした体型ながらも、おっぱいは相当大きそうだ!


「ぐ……」


 俺は思わず足を止めてしまった。その女を飛び越えて先に進むことは容易だった。しかし、おっぱいがどうしたんだと、めちゃくちゃ気になるじゃないか!


「お、おっぱいがどうなさったんですか、そこのレディ?」


 と、気が付けば話しかけている俺だった。しかも謎の紳士口調で。


「はい。実はおっぱいがあふれてきそうなんです」

「おっぱいが……あふれる?」

「こんなふうに!」


 と、女はそこでいきなり立ち上がり、ワンピースの胸元を手で破っておっぱいをむき出しにすると、乳首から白い液体を噴射してきたっ!


「うわっ!」


 とっさに後ろに飛んでそれをかわしたが、油断しきっていたこともあり、ギリギリの回避だった。あぶないところだった。まさか母乳で攻撃してくるとは!


「どうして? どうして、私のおっぱいを受け止めてくれないのお!」


 母乳娘は、一発目を外した後も、さらに何度も母乳を噴射してきた。それをよけるのは簡単だったが、なんせ相手はおっぱいむき出しだ。気になって気になってしょうがなかった。


 しかも、よくよく考えるとこのシチュエーション異常すぎる。ウエディングドレスを着た、はたから見たら変態そのものの俺と、それに向かって、まるで水鉄砲のように乳首から乳を噴射してくる女って。マニアックにもほどがあるぞ!


「……まあいい。今はどんな障害物も排除して先に進むだけだ!」


 俺はただちに、ブーケでその母乳娘を横に吹っ飛ばした。そして、そのまま先に進んだ。いいおっぱいの若い女を攻撃するのは好きじゃないが、どうせカラクリだし気にしてもしょうがない。


 だが、直後、前方から地響きのようなものが聞こえてきた。ゴゴゴゴゴ……と。なんだろう。新手のスタンド使いか? いや、違う。この世界に荒木先生はいない。前から来るのは、スタンド使いではない何かだ。


 と、やがてすぐに、それは俺の眼前に現れた。それは巨大なウェディングケーキの群れだった。そう、それらがまるで激怒した王蟲のように、集団で、かつ木々をなぎ倒しながら猛烈な勢いで俺に迫ってきているのだった。


「ちょ、待て……」


 ケーキの群れに襲われるとかまた意味わからんし、そもそもでかい上に物量がはんぱないんだが! ケーキにぶつかったら当然ドレスが汚れちゃうんだが!


 ただ、ジャンプでよけるにしても、ケーキたち?は横にずらっと並んでいるし、奥にもたくさんいるようで逃げ場がなさそうだった。


「くっ……」


 どうしよう。このままではケーキにぶつかってドレスが汚れてゲームオーバーだ! 今までいろんな努力を重ねて、やっとベルガドの祝福まであと一歩というところまで来たのに、こんなところで終わってしまうのか、俺! というか、マジでこんなアホな状況で詰んでしまうのかよ! ひどすぎるだろ、俺の旅の結末!


 こんなんじゃ、俺、ユリィと幸せになんかなれない……。瞬間、そのかわいらしい笑顔が目に浮かんだ。しかも、ちょうど二人で結婚式を挙げているところだった。そう、俺がウェディングドレスを着た花嫁で、ユリィが白い燕尾服を来た花婿……って、なんでそこは逆なんだよ。花婿コスプレのユリィもかわいいけどさあ。そうそう、そのまま一緒に手を重ねてケーキ入刀したりなんかしてさあ……うふふ。


「って、ケーキ入刀! そうか、その手があったか!」


 俺はその瞬間、はっと気づいた。迫りくるウェディングケーキたちへのたった一つの確かなアンサー。それは、よけることなんかじゃなかった。断じて!


「はああああっ」


 と、気合を入れながらブーケを強く握りしめると、ウェディングケーキたちに向かって振り下ろした! 全身全霊を込めて、力いっぱい!


 ドッーンッ!


 俺のその「ケーキ入刀アタック」は、衝撃波でウェディングケーキたちをまっぷたつに割り、道を作った。おお、やっぱりこれであってたんだな! 俺氏、マジモーゼ。


 俺はそのままケーキの中にできた道を突き進んだ。こっちであっているのか、正直よくわからないが、もはや迷っている暇はなかった。

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